銀河英雄伝説を見終わったときに浮かんだのは
「文学的」という言葉でした。
壮大な物語で、いくつかの大きなテーマを掲げた内容だったけれど、結局、最後のラインハルトの死に全て持っていかれたな、というのが率直な感想。
長い物語の道中、さまざまな人の人生のあれこれが、いろいろあったけれど、やっぱり主人公はラインハルトですね、と思い知らされてしまった感じ。
自分の半身とも言えるような親友を、自分のせいで早くに失い、
最愛の姉にも距離をおかれながら、
たった25歳で宇宙を支配したラインハルト。
最後の最後でヒルダを娶り、息子も生まれたけれど、
戦いのない世の中を前にして、
平和の中に生きる目的が見つけられないまま
病に倒れる自分を静かに受け入れているラインハルトの胸の内を思うと、
「切ない」
という言葉しか出て来ない。
たった、25歳ですよ?
すべてやりきって、
自分が思い描いてきた社会の実現を目の前にしながら、
その社会に自分の生きる場所が見いだせない、って、もうどんな状況ですか?
終焉間際。
肌身離さず身につけていたラインハルト、キルヒアイス、アンネローゼの幸せなころの3ショット写真の入ったペンダントを
「もう私には必要ないから」といってアンネローゼに渡すシーン。
孤独な戦いの中で、それだけを心の支えにここまで生きてきたんだなと、しみじみ思い返しちゃいましたよ。
ほんと、なにかあるとすぐにペンダントに話しかけてたもんね。
話し相手はキルヒアイスしかいなかったもんね。
どんだけ孤独な人生だったんだろう。
軍人としても政治家としても優秀で、人望もあり、髪を伸ばしてからは、堂々とした威厳まで備わって、まさに非の打ち所のない君主なんだけど、
その実、すぐに癇癪起こすし、寂しがり屋だし、ヒルダと一夜を共にした後の回なんて、まあもう、ほんと純真な少年レベルの反応でかわいらしいくらいだったし。
そのギャップもまた、ギリギリのメンタルで頑張っていたことを証明しているようで、ラインハルトの気高さが際立って、ますます切なさが募る。
で、そこにあの、ビジュアルですよ。令和では考えられないような、あのふわっふわの髪型。さらに、声優さんの演技とか、女優ライト並みに常に白っぽく紗がかかっているところとか、そういう昭和感満載の演出が、切ないストーリーにぴったりなのよ。
そもそも、私はヤン推しだったし、王子様タイプはどちらかというと胡散臭くて苦手なので、ラインハルトも最初は眼中になかったんだけどね。でも、じわじわと心の中に入ってきたよね。あの王子様的見た目と、子供っぽい性格のくせに、生き様が硬派すぎる感じ。まさに駆け抜けた人生だったよね。いやほんと。悔しいけど、堂々たる主人公だわ。
仮にラインハルトがもっと生きていたら、もちろんよい治世を行っただろうけど、戦いのない世の中に生きるのは、彼の苦しみを引き伸ばすだけだったと思うから、戦いで解決できることを全て成し遂げたところで、安らかに最期を迎えられてよかったね、と。本当はもっと生きててほしかったという気持ちもありながらも、あるべき最良の最期だったと、素直に死を受け入れられた感じはします。
そういう意味では、ヤンの最期はつらかったし、あっけなかった。
でも、ヤンもラインハルトも、戦闘中に死んだわけではないというのが、すごく上手いところだなあ、と。どちらも実質相手には負けてないし、でもどちらも、最後まで相手に勝てなかったと思ってる。戦略と戦術。これも作品を通したテーマの1つだったけど、どちらが大事か、結局のところ決着をつけずに答えが視聴者に委ねられているあたり、やっぱり文学的だよね。
それから、ロイエンタールも切なかった。忠誠心と権力欲の間で揺れながら、結局、流れに身を任せるしかなくなって、悲劇的な方向へと向かっていってしまった。公私ともに常に欠如感を抱えていて、最後まで満たされることのない、ひんやりとした人生。
オーベルシュタインもドサクサに紛れて死んでしまったしね。あのまま生きてたら、危うく自分がナンバー2になってしまうところだったけど、自分を例外にせず、ナンバー2候補を自ら始末して終わった感じ? なんというか、律儀だよねって思ったわ。彼はホントおもしろいキャラ。個人的にはスピンオフ所望。彼から見た一連の出来事、そして、彼のプライベート。めっちゃ興味ある。
まあ、結局、たくさんの人が死んだけど、「戦いの場」にしか「生」を見いだせない人たちが死んで、平和な世の中で幸せになれそうな人だけが残った、という印象かな。
あ、でもヤンはちがうか。ヤンはずっと、平穏な人生を望んでいたわけだし、そういう人生の方が似合いそうだもんね。なのに、新婚生活もほんの一瞬だったしね。退役して人知れず静かに生きたかったのに、あろうことか、死後も英雄として祀り上げられてしまって。
死んだ後まで不本意な人生って、どんだけだよ!!! って思ったけど、そこも含めてヤンなんでしょうねぇ。
そう考えると、ヤンは、逆の意味で「平和」に生きられない人だったのかも。つまり、ヤン=英雄がいる限り、戦いは終わらないってこと。英雄がいると、勝てそうな気がするから、周りが諦めないよね。結局戦うことになっちゃう。皮肉な話だけど、あそこでヤンが暗殺されなかったら、戦争はもっと長引いたかもなぁと思うと、ヤンもまた「戦いの場」にしか生きられない人だったのかもしれません。望まぬところで飛び抜けた才能を持っていたがゆえの悲劇、というところでしょうか。
ということで、
やるせなさ満載のこの作品。
イケメン取り揃えのノイエ版では、どうなっているのでしょうか。新ラインハルトはどんな最期を迎えるのでしょうか。
楽しみです。