10月に入り、井上寿さん(一級建築士&こども環境アドバイザー)とたつのこ保育園(山形市)で研修をしていた時、「子どもの権利条約と保育指針(教育要領)は常に振り返っておきたいよね」という話になり、以降、これらを研修の中で触れるようにしています。土台としておのおのの保育者が認識しているとしても、日々の忙しさや新たにやってくる様々な出来事などに忙殺されてしまうこともあり、折に触れて基本を確認しておくことは大事だなぁと思うわけです。
 
全国を歩いていると、給食時の対応であったり、子どもが遊んでいるときや園庭から部屋に入るときなどのおとなの対応であったりが、指針や要領、権利条約(第12条の意見表明権など)に照らしあわせたとき、それってどうなの、と思うことがある、という声を時折聴きます。
 
保育者の気持ちは大事だけれど、これらの基本中の基本から、園の理念から考えたときそれってどうなの?というような子どもへの対応がまだまだあるのです、という話も耳にすることがあります。ある園では、「採用時、個人としての考えは考えとして、園に来た以上、園の方針に従っていただきます」、とはっきりと伝えているとのことでした。
 
子どもを尊重する、ということはどういうことなのか?
こちらの思いを伝えてはいけないのか?
ではなく、何をどのように伝えるのか?
そもそもそれってどうなのか?
「主体」と「主体」が接する、その接する面での折り合いをどうつけるか?
 
これから年度末に向けて、改めて話題にして振り返ることが大切だなぁと思っている最近です。
 
【自然発生したおしくらまんじゅう。地面に円を描くとなぜか発生率が高くなる】
 
ー*ー*ー*ー
 
さて、とちの実保育園(山形市)のワークショップ。
冒頭の井上さんは木・金、わたしは金・土の参加となりました。
(保護者さんの参加ものべ10人以上)
 

内容は、園庭のメンテナンスや新たな「ドーム」作り。

0歳児室テラスの更新、1歳児室のロフト「ドングリーナ」のアップデート作業などなど。
 
【ワークの時間中で「観察&検討」、どう整えるかを決めていく】
 
上の写真。1歳児室のロフト「ドングリーノ」をどうアップデートするかを話し合っているときのもの。
おとながみんな引き上げてみたら、瞬間戸惑った子どもたちでしたが、その後、自分たちでとっても楽しそうに遊んでいます。
ままごとのスペースも役割が決まっていて、それぞれが演じ合っている。
ふだんのおとなたちの関わり、どうなの?って振り返る貴重な時間にもなりました。
 
ただ、物を作れば解決、という話ではなく、そこに関わるおとなによって、その環境は生かされもするし逆の結果も招きます。場合によっては、けがを誘う声かけや振る舞いだって起こりうるので、物的・空間的な環境を整えていく時に、人的・心理的な環境であるおとなたちの気持ちも同時に整えていく必要があります。なので、このような時間はとっても大切なのです。継続的な園内研修も不可欠です。これがあって、初めて自分たちの手による場作りの成果がより期待でき、より安心できるようになっていきます。
 
【取り外された部材に書かれた、スタッフのメモ】
 
本人の心もち次第でおもしろくもつまらなくもなる
まさに高杉晋作の辞世の句、『 おもしろき こともなき世を おもしろく 』です。
もっとも、分解・破壊は決してつまらなくはなく、おとなも子どもも結構好きな部類に入るのかなって思っているのですが、面白いと感じられるのもそのひと次第。
どうせ同じ事をするのであれば、気持ちを「おもしろく」「楽しく」にセットして。
保育環境を整えていく営みは、方向性。方法さえ誤らなければ、結果として「やった感」「役にたった感」などが高まります。
子どもと自分、おとながともに充実する可能性を高める取り組み。
 
 
若手二人が痛んだ一本橋を解体しました。
解体も、むっつり黙ってではなく、楽しく。
以下動画から雰囲気をお察しください。
 
【最後のビスが外れなかったので荒療治】
 
事者として責任を持って取り組むスタッフたち
今回のワークでも感じたことなのですが、
どこまでも自分たちがやっているんだ、という当事者意識の高さです。
自分たちで散々考えた上での質問はありますが、まずは自分たちで話し合って考え合って。
だって、自分たちの暮らす場所ですもん。誰かにお任せってあり得ないでしょう!
こんなメッセージがみんなの背中から伝わってきます。
 
 
わたしのことを「いじわる」だと捉えられている方もいるかもしれませんが、質問を質問返しすることがままあります。
その場は解決しても、日々の暮らしの中で対応していかなくてはならないのはそこの「暮らし手」さんなので、
考えること、ひらめくこと、行動してみることなどを積み重ねていくこと。
これが、自分たちをアップデートさせ園の文化を築いていきます。
なので、敢えて、質問返しをします。微笑み返しの方が良いのですが(キャンディーズ♪)。
すみません。
 
専門家の知恵もたまに借りつつ技も借りつつも、自分たちが暮らす空間は自分たちが最終的には創る。
とちの実保育園は、時間を掛けてこのような体質を創ってきたのだろう、と思います。
 
誰も、最初は、やりかたも何もよくわからないので、先を行く園の取り組みを参考(時にコピー)にしたり、専門家に頼ったり。
しかし、だんだんと自分たちでやっていこうとする気持ちも強くなり、思考・思考委錯誤していきながら、それを形にしていく腕もついていきます。
 
これは、子どもたちが育っていく道筋と同じ。
おとながそれを示すことで、子どもに伝える。
 
 
この上の動画は、既存のロフトに隣接する部分に「展望台」を付けようとしたとき、上り下りの動線設定に怖さを感じ、とことん話し合っている時のほんの一部の様子です。左が園長、右が1歳児の担当。対等な立場で、子どもたちの動きを具体的にイメージしながら、妥協せずに意見を交換し合っています。この時間こそ、大事にすべきワーク内容のひとつです。
 
 
何かあれば立ち止まって考える。
モヤをそのままにしないで、声に出して共有し、考え合う。
誰かがやってくれるだろう、は、ナシ。
 
【ほぼほぼ完成したところでタイムアップ。週明けの完成を目指します】
 
【ドームは姉妹園のものも参考にしつつ、今後完成させていきます】
 
夕方5時の仙山線に乗って仙台へ。
仙台から仙台空港に。
 
みなさん、二日間、ありがとうございました。
 
 
おわり。