【ネタバレ、ガッツリあります。】
久し振りのシネコンです。
広島市出身、水田伸生さん監督で阿部サダヲさん主演、
洸平くん他出演の「アイ・アムまきもと」です。
10月14日(木)が、午後上映のある最終日だったので、
思い切って行ってみる事にしました。
この映画は、2013年イギリス・イタリア合作映画「おみおくりの作法」がオリジナル、
第70回ヴェニツィア映画祭で、監督賞を含む4賞を受賞した作品のリメイクです。
ギリギリまで、お席の埋まり具合をネットで見て、どうやら1人旅になりそうな予感。
ジンジャーエールのお供に、ちょっと匂いや咀嚼音が気になるかな~と思いつつ、
「一人旅なら!!」と、心惹かれた「ちょびチキ」をセットにして頼みました。
100円引きのクーポン券を使って580円也。
お席に着いてみると、あらまっ!!もう一人一番後ろのお席に!!
もし、咀嚼音や匂いが漏れていたら、ごめんなさ~い。
でも、もう一人いらして心強かったです。
作品は、山形県庄内市という架空の地方都市が舞台。
阿部サダヲさん演じる牧本壮は、
「おみおくり係」という、孤独死をして、引き取りを拒まれている人を埋葬するお仕事です。
空気が読めなくて、人のお話は聞かない、心は開かない。
けれど、任せられたお仕事は最後まで全うします。
孤独死を扱う故に、この「全うする事」が、悲しいけれど、各所に迷惑をかけてしまいます。
洸平くん演じる警察官の神代亨とは、立場上、ことごとく対立してしまいます。
孤独死のご遺体の近親者が見つかるまで探し、
お葬式をして、近親者が参列するよう孤軍奮闘する牧本。
探し尽くしても見つからない場合は、牧本が自腹でお葬式をあげるのです。
当然、お葬式までの間、ご遺体を預かるのは警察な訳で。
「この警察署のご遺体用冷蔵庫がいっぱいで、
他の警察署のを借りないといけなくなっている。
ここは、貸倉庫じゃないんですよ!!」と絶叫する神代。
洸平くんのセリフは殆ど、絶叫でした。
割と淡々と進む物語の中で絶叫の演技をするのは、難しかったとは思いますが…。
ちょっと否定的な事を書きます。
普通のトーンの話し声は、優しくはあるけど、悪く言えば甘ったるい、湿度の高い声です。
それが今回の絶叫では、高音が金属系の耳に障るような音声に変化して、
ちょっとしんどい時がありました。
他の演者さんが、抑え目でありながら、ちゃんとメリハリのある演技をされていたので、
残念に思いました。
(あくまでも、個人的意見です。)
物語の中心は、
孤独死した、宇崎竜童さん演じる蕪木孝一郎の人生を辿り、近親者を見つける旅です。
蕪木は、牧本の住む市営住宅の向かいの住人。
「おみおくり係」廃止が決定したので、牧本最後のお仕事になりました。
取り掛かりは、蕪木の持っていた運転免許証。神代に、戸籍関係を調べてもらいます。
蕪木が持っていた、10才を祝う塔子という名前の少女の写真も、手がかりになりそうです。
蕪木は、北海道の炭鉱で働いていた。
事故で目を負傷した國村隼さん演じる植田幹二を助けた。
当時の従業員の待遇をめぐって経営陣と対立し、退職をした。
その後路上生活者をしていたが、
民生委員だった千晶と出会い結婚、養豚場で働き始め、
満島ひかりさん演じる津森塔子が誕生する。
殆ど目が見えなくて車椅子の植田が訪ねて来た時、自分の幸せがいたたまれなくなって、
塔子の10才の誕生日に家を出る。
魚住食品に勤めるが、仲間の事故をきっかけに労働条件改善を上司に要求、対立して退職。
蕪木は、魚住食品近くの田んぼにやってくる白鳥を携帯で撮っていた。
携帯に白い点のようなお写真が何枚も入っていて、それが、白鳥のお写真だとわかった。
港町で、宮沢りえさん演じる今江みはると一緒に暮らす。
地元の漁師と喧嘩沙汰を起こし、警察の留置所に収監。
神代に資料を調べてくれるよう頼み、塔子が面会に来た事がわかる。
塔子とは喧嘩別れ。その後、現在の場所へ。
これが、牧本が調べてわかった蕪木の一生でした。
ゴミ屋敷で、孤独死していた男性にも、その人だけの一生がありました。
不器用だけど、人のために行動し、一生懸命生きた一生。そして、なぜか、女性にモテた。
きっと他の人にもみんな、その人だけの生きて来た証があるのです。
牧本は確認しました。白鳥は、塔子の好きな鳥でした。
他人に心を開かない牧本が、塔子の家でいただいたお紅茶を、美味しいと口に出しました。
蕪木の一生を辿るうち、牧本も、少しずつ心境の変化があったのです。
1人暮らしの牧本は、炊飯器やお鍋から直接ご飯を食べていたのが、
ちゃんと食器に盛りつけていただくようになりました。
そしてある日、あれ程マイペースで人の事は聞かない牧本が、
横断歩道は注意して渡っていた牧本が、
白鳥のお写真を撮るのに夢中になり、横断歩道に飛び出し、あっけなく亡くなってしまいます。
亡くなった牧本の部屋には、
赤い金魚が1匹と、整理整頓された最小限の生活用品や衣服がありました。
もちろん牧本の最期は予備知識がありましたが、
人の情を知り、
感情移入できると亡くなってしまう「鎌倉殿の13人」の登場人物とオーバーラップし、
ちょっと胸がキュンとしました。
最後、蕪木の葬儀は雨の中、
牧本が訪ねて行った人々が集い、ささやかだけど厳かに行われました。
同じ日、牧本もあれ程対立していた神代に見送られて、静かに旅立って行きました。
降りしきる雨の中、「牧本さん、あなたの粘り勝ちですよ。」と神代が一言。
そこには優しい洸平くんがいました。
雨上がりの空に虹。宇崎竜童さんの歌う「Over The Rainbow」で物語は終わります。
オリジナルがヨーロッパの映画らしく、地味だけど品のよい作品でした。
ゴミ屋敷のゴミは写しても、ご遺体は写さないのも、
尊厳を守っているようで、とてもよかったです。
又、人と人との結びつきが深いイメージの東北の地方都市が舞台なのもよかったです。
「死」を扱っていますが、虹のラストシーンで、救われた気持ちで観終われました。
水田伸生監督と阿部サダヲさんのタッグで、
もっとコメディ色の強い作品かと思っていましたが、
特に洸平くんと絡むシーンで、コメディの要素はありましたが、
意外と社会派で、結構感動できました。
この映画とは関係ないけれど…。
もし、洸平くんが主役をやる機会があれば、正直、ラブストーリーはお腹一杯なので、
是非、社会派の作品であって欲しいです。