フィラデルフィア通信⑰核兵器にNOを:核兵器禁止条約をつくるという継承の形 | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録

 2017年7月7日、ついに核兵器が法的に禁止された。核がこの世で初めて使われてから72年、世界の過半数の国々が核兵器にNOと言った。NOと言っただけではない。法的拘束力のある核兵器禁止条約を正式に採択したのだ。この条約により、核兵器の開発、実験、保有、移譲、使用また使用の威嚇が禁止され、さらにこれらの行為をいかなる形でも援助、奨励、勧誘することも禁止された。この歴史的な採択の瞬間に居合わせたカナダ在住の被爆者のサーロ節子さんは「核兵器は長く非道徳的だと言われてきた。今日、核兵器は非合法となった。」と力強く会場に向けて言葉を放った。

 

 「ヒバクシャ(Hibakusha)」という言葉を前文に含むこの条約が制定されることを、長年核兵器廃絶を訴えてきた広島・長崎の被爆者がどれだけ切実に望んできたかを、私は被爆者のみなさんに寄り添いながら目の当たりにしてきた。そしてこの条約を歓迎したヒバクシャは広島・長崎の原爆被害者にとどまらない。3月と6月から7月との2会期に分けて行われた核兵器禁止条約の交渉会議には、オーストラリアやタヒチの核実験被害者など、これまで核の被害を受けてきたヒバクシャも世界各地から集まった。私は彼らの声に改めて耳を傾けながら、核が、そして核を持つ国々が、どれだけたくさんの人の尊厳を奪ってきたかを実感した。だからこそ、核のない世界を実現するための確固たる一歩となるこの条約の制定を、私も心から歓迎する。

 

 私は3月の交渉会議にも7月の会議にも、一部ではあるが参加し、ヒバクシャのみなさんの発言や活動のお手伝いをしたり、各国からのメディアの取材の際の通訳をしたりした。そのような形で触れる条約締結に向けた議場でのイニシアティブの中で深く考えたことがある。それは誰が市民社会を牽引していくのか、という問いだった。今回の核兵器禁止条約の交渉会議では、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメンバーを中心に、主に20代・30代の若いキャンペーナーらがリーダーシップを発揮していた。各市民団体の発言をとりまとめ、条約草案に対する意見を述べ、各国の国連代表部と地道な交渉を重ねていた。彼らは各国の外交官と並んで、交渉会議における主要プレイヤーだった。そのような彼らをみながら、チャリティやボランティア精神だけでなく、パッションをプロ意識と専門知識で装備しグローバルイシューに取り組む彼らこそが当事者の声を「受け継い」でいるのだと思った。

 

 「継承」とは記憶を受け継ぐことのみを指さない。今回の核兵器禁止条約のように、当事者のメッセージを具体的に形にしながらよりよい社会をつくっていくことも、「継承者」のありかたなのかもしれない。

 

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