素数…自分と1以外で割り切れない素直な数 | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録

中学生の時、たしか1年生だったかな。小川洋子さんの「博士の愛した数式」を読んだ。私の本好きには波があるのだがが、高潮の時は病的になる。ちょうどそのころの私は活字中毒の高潮を迎えていて、授業中に平気で本を読んでいた。ちなみに、高校1年の頃にもそういう時期があって数学の授業中に怒られたことがあった(笑)

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私は本を読むスピードはわりと速いほうだと思うのだが(日本語に限る)、その分内容を忘れるのが早い。特に小説に関しては、そのときにその世界に浸るという快感のために読むので、ストーリーを覚えていることはほとんどない。あまりにも覚えていなくて人に怪しまれる。

ちなみに私はピアノでもそうだった。幼稚園の頃から高校生までピアノを習っていたが、なぜか人に比べて初見で弾くのが得意だった。その代わり暗譜(楽譜を覚えて楽譜を見ないで弾けるようにすること)になると人より遅かった。

この二つにはきっと何か関連性があるはずだから、脳科学をやっている人か誰かに私の脳がどういう仕組みになっているのか一度調べてもらいたいと思っている。

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さて、話は戻る。

「博士の愛した数式」も例外ではなくもちろん詳しい内容はとうの昔に忘れてしまったのだが、「記憶が80分しか持たない博士」、「ルートと呼ばれる男の子」といった断片的なキーワードと、そして何よりも「とにかく美しい小説だった」という強烈な印象だけはずーっと残っていた。私は小説の二度読みは基本的にしないので再び読むことはなかったものの、以来このタイトルを目にするたびに「美しい小説だったなぁ」と思い出すのだった。

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ジャパンクリエイティブセンターが無料の映画上映会を毎月開催することは前にも書いたが、9月の映画はなんと「博士の愛した数式」だった。小説が映画化され、2006年に公開されたものだ。この機会を逃すまいと韓国人の同僚を誘って行ってきた。

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そしてやっぱり映画も美しかった。おそらく小川洋子さんが数学という一見無機質なものに、人間的な側面を与える達人的な技を備えているからなんだろうと思う。

自分を除いた約数の和が互いの他方と等しくなる友愛数
例えば、210と284.
210: 1+2+3+5+10+11+20+22+44+55+110 = 284
284: 1+2+4+71+142 = 210

これが小川洋子さんの話の中では、主人公の家政婦の誕生日(2月10日)と博士の学長賞の番号(284番)との関係となり、二人の関係性の隠喩となる。

その他にも、完全数、虚数、ネイピア数など、数学の授業で出てきたらとりあえず目を背けたくなったであろう数学用語が生き生きと、とても自然に描かれていく。


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私の誕生日は5月29日なのだけど、そのどちらも素数だ。小川洋子さんにかかると素数は「自分と1以外で割り切れない素直な数字」。自分と1以外にある様々な数には決して割り切らせない数字。

頑固になろうとは思わないけれど、簡単に物事を割り切らない、人に割り切らせない、自分に素直な人間を目指そうと思った。

P.S. 529は23の二乗なので、残念ながら素数ではありませんでした。