1m食パンの本棚

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小説書いてます。
もともと違うサイトの方から作品お引越し中。。。
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昔から、頑固といわれることはよくあった。
ああしよう、こうしようと思うとついつい実行に移したくなってしまうのである。

そんな自分が嫌になることも多々あった。
けれども杉崎はそんな私を面白いといって受け入れてくれた。
私が何か突っ走るたびに杉崎は笑って見守ってくれる。


今日、杉崎から郵便が届いた。
どんなにクタクタの状態で帰ってきても、私の心臓はそれだけで高鳴り始める。
スマートフォン、SNSの普及したこの時代に…と女友達からは笑われることもある。
寂しくなることもあるし、不安になることもある。

けどその分お互いの時間はすごく大事にしている、それに適度な距離感はいつまでたっても会える時間を新鮮にさせてくれて、なかなかドキドキがなくなることがない。
それもここまで長続きしてきたことの一因だろう。


私はソファに座り込んで分厚い茶封筒を見る。
杉崎の字で書かれた私の名前にまた少しどきどきした。
丁寧にあけるとインクのにおいと文庫本半分程度の原稿用紙が中に入っていた。
何に対してというわけじゃないけど、動揺を悟られないようにソファに座りなおし、私は原稿を読み始めた。

杉崎は原稿の間違いを訂正されるのを嫌う。
だから彼の小説の書き方は、原稿用紙に書きそれを自身で訂正してからパソコンに入力する方法だ。



けれどもこの原稿には訂正された部分が見当たらない、となると、もしかしてこの小説は私のために…

その原稿用紙を、私はゆっくりと味わうように読んでいく。


最初は呼吸がゆっくりになって、脈がゆっくりになって、最後は時計の音すら聞こえなくなる。
杉崎の小説には人を入り込ませる才能がある。彼の小説を読むたびにそれを感じる。
根強いファンがついているのもその才能のおかげだろう。


そういえば私も以前杉崎にあこがれてこっそりと小説を書いたことがあったんだっけ
人の悩みを感じ取れるねこ、その猫の住む喫茶店の話。ゆったりとした和やかな話が私は好きで…
こそこそとノートに書きとめていたのに、結局鋭い杉崎に見つかってしまった。
本業の作家に私の作品を見られたりしたら…私はダメ出しを覚悟した。

けれども…
「面白い、続きは??」
杉崎はそう言って私の顔を覗き込んできたのだ。

それどころか、私のオリジナルを気に入ってそのアンソロジーを書いてきたこともあった。
仕事で小説を書いて、休日にも趣味で小説を書くなんて…
そんな杉崎が、私にとっては面白くて二人で作品について笑い合ったものだ。
懐かしいな…

その小説は、まさに私の作品のアンソロジーだった。
それまでひっそりとしていたカフェがだんだん有名になり、忙しい毎日が過ぎていく。
そんな時に看板猫が家出してしまうのだ。
主人公はその猫を探す過程で様々な光景に出合い、心を癒されていくという話のようだ。



読み進めて、私は少し笑った
というのもこの猫、実をいうともともとのモデルは杉崎なのだ。
気まぐれで、自由で、一見鈍いようでいて関わる人全員を繊細に理解する。
最初は杉崎を書くつもりではなかったけど、自分で書いてから似ていることに気づきそれ以降時々意識して書いている。

小説を読みながら考える。

まるで今の私みたい。
相棒がいなくなってしまったけど仕事が忙しく余裕のない主人公。
今の私も、この小説のように忙しさに時間をとられてばかりだ。

今日から、連休か…
私はカレンダーを見て大きく深呼吸をする。




よし、探しに行こう、杉崎を。


私は勢いよく立ち上がり、大きく伸びをした。




人と宇宙の歴史は長い。古くは明かりのない長い夜、ひとは星と星を繋げて星座を作った。
あれは何に見えるか、これは何に見えるかとすべての星を繋げ合わせて。
星屑の海だった夜空は瞬く間に星座で溢れ帰ったことだろう、やがて星座は神話になり地上の夜に明かりを灯したことだろう。

しかし、それも今日で終わり

地球は今日で、裏返った。


____________________________

小学校は昨日からずっと臨時休校で、僕は酷く退屈していた。

つけっぱなしのテレビでは、お父さんが地球の状態について何度も同じ説明をしている。
普段はより取り見取りのくせにこんな時にはどこの局を見ても何度も同じ顔が出てくるばかりで…僕は生まれてこの方感じたことのないような退屈を味わっていた。

本当は外にでも遊びに行きたいくらいだが、子供も大人も政府から【あんぜんせい】が保障されるまで家から出ることは軽く禁じられている。
暇の八方ふさがりだった。


僕は青々しく晴れた空を見上げて大きくため息をつく。
一見何の変わりもないこの青はこの地球にとんでもない事態を包み込み、知らん顔。




地球が裏がえってから一日が経った。
といってもあんまりに地球が大きいので、きっと気づいた人はそんなに多くもなかったんじゃないかと思う。水平線の見えるような地域なら見えないこともないだろうが、僕みたいにこの都会の住宅街なんかに住んでいたら気づけなくても仕方のないことだ。

長々と頭の良い偉い人々が燃料不足について「ああでもない」「こうでもない」と話し合っていたこの球体は、ちょうどドーナツの穴のように、急に内側に向かって花開いた。
もともと宇宙だった部分は地球の地面になり、僕たちは地面の中に潜る、それこそモグラのような存在になってしまったのだ。


しかし、こんな壮大なことが起こったにもかかわらず、この変化は悪いことばかりではなかった。ニュースによると、なんと、以前の地球では考えられなかったような量の液体燃料が地中から発掘されたというのだ。
更に不思議なことに、内側にくるまった地球の中央には何故か見慣れた太陽が浮かんでおり、夜になるとその活動を一時的に弱めるようだ。


こんな環境では一般人に気づきようがない。

かくして一晩にして、僕のお父さんの研究の功績は全くの無駄になってしまった。
いや、お父さんと僕の研究は無駄にはならない、きっと未来にでも‘星があった時代’の貴重な資料として未来栄光人々に語り継がれるのであろう。

僕は窓を開ける。
新春の和やかな空気がフローリングの上を走り去る。

僕は月のことを思った。
小さなときから何度も何度も暗い夜、怖い夜を明るく照らしてくれた月。
今は見る影もない月。
僕はこの地上を照らす太陽のようなものは、太陽のかけらだと思った。
太陽は実際、地球の何万倍もある大きな塊で表面のぼこぼこ爆発している星だった
そんなものが地球の中に納まるなんて、あり得ない

僕は目をこする。
昨晩いくら待てども結局星も月も見えなかった。
僕は二回の屋根に出て一晩中夜空とにらめっこしていたのだ。
今日もしお父さんが帰ってきたら、きっと太陽のかけらの話をしよう
そう考えて僕は目を閉じた。
心地のよい風がまた静かにカーテンを揺らした。

限界だ…

私の限界は大抵突然に訪れる。
遂30分間前まで大丈夫でも、今は窒息しそうなほどに苦しい。
仕事で疲れきった私の心は、杉崎に対する疑いと杉崎を疑う事への嫌悪感でどろどろと煮詰まっていた。

私のつまってしまった肺は、どれだけ大きく深呼吸を繰り返しても、まるで水風船にでもなったかのようにたぷたぷ沈むだけ。


そんな日常のなか、毎晩私は必死に一人で眠りにつこうとする。

こんなことなら実家から出てくるんじゃなかった。
実家ならこんな怖い思いはしなくてすむのに。
…と、心の中で何度も何度も杉崎を責める。

私はどうしても夜に眠るのが怖いのだ。ぽっかり開いた夜と夜にできる影が怖くて仕方がない。誰かがいればまだマシだが一人ならなおさら。

私は書斎の天井をじっと見つめる。
空の代わりにぶら下がった天井は、この世界を昼にはしてくれない。
それどころか電気をつけたとたん、あの窓は外が夜だと言うことをとことん思い知らせてくるだろう。


でも

私は身震いした。
杉崎に言ったら何て言うんだろう
きっと、ものすごく笑うに違いないな、
でもきっと最後は、私のためにと同居を解消しようとするだろう。



だからこそ私は
杉崎に言うことができないでいる。


私は、その覚悟で同居を始めたんだ。
一生なにがあっても、どんなに怖くても杉崎に着いていくと決めたんだ。

大丈夫だよ…大丈夫!

私は怖さに歯を食い縛る。
目をギュッと閉じて夜明けを待つ。
けれども、無情に響く時計の針は歩幅を早めてはくれなかった。


正面にある机は座布団と畳にとても相性のいいデザインで
そこにある電気スタンド、部屋の裸電球も昭和の小説家さながらの雰囲気を醸し出している。

私はそっと部屋に入り後ろ手にドアを閉める。
リビングにも明かりはついていないしこの部屋にもいない、おそらく杉崎は取材旅行に行ったんだろう。
杉崎の書く小説は様々なジャンルに精通している。第一印象のように純文学を書いているかと思えばホラー・ミステリー、その見た目に似合わない恋愛小説まで書いている事もある。

ただ単に小説家といっても固定のファンが付くまでは一つのジャンルに絞り食べていくのは難しいことだったりする。幸い、杉崎は雑食というかいろいろなジャンルを読み漁るようなその性格で、大ヒットとまでは行かなくても常に上々の売り上げはある。
現に同居をはじめた二年前から収入も家に入れてくれているしたまに食事にも連れて行ってくれる。
ただ…

杉崎の取材旅行というのは大体突発的、不定期に始まる。
編集さんにも私にもいつも突然に旅立ちそして膨大な資料とたくさんのお土産を抱えて帰ってくる。
本人いわく、どこかに行くと宣言すると行きたくなくなってしまうそうなのだ…私にはよくわからないけど。
1~2週間で帰ってくるときもあれば、何か月か帰ってこないこともあって、だけど幸い月単位で帰ってこない時は私宛にはがきを送ってくる。小説家かぶれな杉崎は携帯を持っていないからだ。
唯一持っているノートパソコンからも必要以上のメールのやり取りはない。

私はまた大きなため息をついた。

寂しい

机の方まで歩き、そして綿のこわばった青い座布団に座り込む。
夏の近づく夕暮れの部屋は古書とインクのにおいで満たされている。
机の上には原稿用紙が散乱していて、私はそのうちの一枚を手に取り目を通す。


彼は誰かに自分の文章を直されるとひどく落ち込む、そのためこの部屋で原稿用紙に下書きし、それを自分で訂正してから最後にパソコンに打ち込み、何度もチェックを重ねて原稿を上げている。私が彼といられるのはリビングで打ち込みをしているときか、たまの休日くらいだった。

手元の原稿用紙には赤いペンで何度も修正加筆された跡が残っている。
この枚数からして正味1か月程度、杉崎は帰ってこないつもりだろう。
青い座布団の上で座りなおし、赤く染まった部屋にひとりきり、私はなんだか惨めな気持ちになってくる。

寂しい

例え缶詰の状態だとしても、杉崎がそこにいる気配は私を一人にしないのに。

寂しい

杉崎のいない間、私は毎日この部屋で眠る。
リビングにいるときも杉崎の席に座って、杉崎の好物を食べて。
杉崎の気配が残るこの部屋にいれば、一人で泣かずに済むような気がするから。
※追うヒト(仮名)の下書きを書いていきます。清書版はアルファに投稿予定。

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一番最初に興味を持ったのは、その見た目から。
よく言えばレトロチック、悪く言ってしまえばもっさりしたその見た目に、私は昭和の文豪たちを垣間見たような気がした。
ファミレスから始まる恋なんて間が抜けているように思えたし、そもそも好奇心から始まった恋愛なんてなかなか続くものではないと自覚はしていたものの…意外なことに私達はすでに付き合って5年が経とうとしている。

成就した恋ほどつまらない話はないので詳しくは割愛する。とにかく、私はこの男の見た目と友人からの‘彼は小説家’という情報に踊らされてまんまと釣り上げられてしまったのだ。

そんなに適当な出会いでも、ウマさえ合えば続くのが不思議なところで、お互いの穏やかで大人しい性格がうまくかみ合って一昨年にはついに私たちも同棲することになっていた。私は会社勤め、杉崎は意外にすごい小説家として昼夜逆転の気ままな生活で、二人の生活は一見うまくいってるようにみえた…だけど。


私は静まり返った部屋に向かって大きなため息をついた。少し汗のにおいの付いてしまったスーツをハンガーにかけ消臭スプレーを何回か振り掛ける。
仕事帰りの私というのは酷い見た目だ。朝にはきれいにまとめていく髪型も、家に帰るころにはふわふわで少しかっこ悪い。化粧も直しているものの、疲れは鋭い杉崎に簡単に見破られてしまいそうだった。
一つにまとめた髪をほどきながら、杉崎の仕事部屋の前で数十秒。
今日は…いない気がする。
私は一か八かでドアノブを握り、手前に引き開ける。
予想通り、本に囲まれた杉崎の部屋はもぬけの殻だった。
杉崎の仕事部屋はとにかくこだわりがすごい。床はこだわりの畳で、ドアを開けると天井ギリギリの大きさの本棚が左右におかれている。それでも入りきらない資料たちが地面に白い山、青い山をたくさん作っている。

正面にある机は座布団と畳にとても相性のいいデザインでそこにある電気スタンド、部屋の裸電球も昭和の小説家に様な雰囲気を醸し出している。