追うひと4 | 1m食パンの本棚

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昔から、頑固といわれることはよくあった。
ああしよう、こうしようと思うとついつい実行に移したくなってしまうのである。

そんな自分が嫌になることも多々あった。
けれども杉崎はそんな私を面白いといって受け入れてくれた。
私が何か突っ走るたびに杉崎は笑って見守ってくれる。


今日、杉崎から郵便が届いた。
どんなにクタクタの状態で帰ってきても、私の心臓はそれだけで高鳴り始める。
スマートフォン、SNSの普及したこの時代に…と女友達からは笑われることもある。
寂しくなることもあるし、不安になることもある。

けどその分お互いの時間はすごく大事にしている、それに適度な距離感はいつまでたっても会える時間を新鮮にさせてくれて、なかなかドキドキがなくなることがない。
それもここまで長続きしてきたことの一因だろう。


私はソファに座り込んで分厚い茶封筒を見る。
杉崎の字で書かれた私の名前にまた少しどきどきした。
丁寧にあけるとインクのにおいと文庫本半分程度の原稿用紙が中に入っていた。
何に対してというわけじゃないけど、動揺を悟られないようにソファに座りなおし、私は原稿を読み始めた。

杉崎は原稿の間違いを訂正されるのを嫌う。
だから彼の小説の書き方は、原稿用紙に書きそれを自身で訂正してからパソコンに入力する方法だ。



けれどもこの原稿には訂正された部分が見当たらない、となると、もしかしてこの小説は私のために…

その原稿用紙を、私はゆっくりと味わうように読んでいく。


最初は呼吸がゆっくりになって、脈がゆっくりになって、最後は時計の音すら聞こえなくなる。
杉崎の小説には人を入り込ませる才能がある。彼の小説を読むたびにそれを感じる。
根強いファンがついているのもその才能のおかげだろう。


そういえば私も以前杉崎にあこがれてこっそりと小説を書いたことがあったんだっけ
人の悩みを感じ取れるねこ、その猫の住む喫茶店の話。ゆったりとした和やかな話が私は好きで…
こそこそとノートに書きとめていたのに、結局鋭い杉崎に見つかってしまった。
本業の作家に私の作品を見られたりしたら…私はダメ出しを覚悟した。

けれども…
「面白い、続きは??」
杉崎はそう言って私の顔を覗き込んできたのだ。

それどころか、私のオリジナルを気に入ってそのアンソロジーを書いてきたこともあった。
仕事で小説を書いて、休日にも趣味で小説を書くなんて…
そんな杉崎が、私にとっては面白くて二人で作品について笑い合ったものだ。
懐かしいな…

その小説は、まさに私の作品のアンソロジーだった。
それまでひっそりとしていたカフェがだんだん有名になり、忙しい毎日が過ぎていく。
そんな時に看板猫が家出してしまうのだ。
主人公はその猫を探す過程で様々な光景に出合い、心を癒されていくという話のようだ。



読み進めて、私は少し笑った
というのもこの猫、実をいうともともとのモデルは杉崎なのだ。
気まぐれで、自由で、一見鈍いようでいて関わる人全員を繊細に理解する。
最初は杉崎を書くつもりではなかったけど、自分で書いてから似ていることに気づきそれ以降時々意識して書いている。

小説を読みながら考える。

まるで今の私みたい。
相棒がいなくなってしまったけど仕事が忙しく余裕のない主人公。
今の私も、この小説のように忙しさに時間をとられてばかりだ。

今日から、連休か…
私はカレンダーを見て大きく深呼吸をする。




よし、探しに行こう、杉崎を。


私は勢いよく立ち上がり、大きく伸びをした。