デリケートな問題があり詳細は記せないが、相手方と連絡がとれた。

角田くんの元奥さんの指示で、ぼくと花ちゃんは当面会えない。おそらく興信所を使ってぼくらを調査するだろうから、離婚が成立するまでは一緒にいるところを見られてはまずい。むろん捜査ではないので、ぼくと花ちゃんは秘かに連絡を取り合っている。

角田くんの元奥さんとはお会いしたことがないのだが、物腰の柔らかい弁護士さんでかなり美しい人らしい(花ちゃん談)。

いまぼくに出来ることはあまりなくて、花名義の準備費用を弁護士事務所に預けておくことぐらいしかできない。事務所が手配してくれた花の宿泊先はぼくの所有する系列ではなく、かの有名な○パホテルだ。花は毎日大きな温泉につかって、食事もおいしく快適だそうだ。とりわけビュッフェの「串揚げがおいしい」らしい。2度漬けどころか、カップに注いだソースにボチャボチャ漬けて食べているそうだ。

居心地のよいホテルのおかげで、日に日に花ちゃんは元気を取り戻している。都心にあるのもいい気晴らしになっているのだと思う。毎日DEAN&DELUCAやシティベーカリーをのぞきに出かけるのがたのしみだと教えてくれた。

ただ不妊治療が与えたダメージは大きく、ぼくのところへ来たときの彼女は心身ともに弱り疲れ果てていた。実家に頼れず、相談する相手もおらず、状態はかなり危なかったように思う。彼女の身に何が起こったのかは想像に易い。白い頬はやつれ、肩や背が痩せ細り、彼女は幼い子どものように薄く小さくなってしまった。

 

 

熱いほうじ茶をそそぎながら

「ぼくと結婚するか?」と訊ねたら

湯気のむこうで一瞬もおかず

「する」と答えた。

 

頭の中で考えていたプロポーズとは違っていた。咄嗟に出た言葉で、シンプルにふたりの将来が決まった。花ちゃんはわさび茶漬けをすすり、たくわんをかじりながら泣いていた。「アレクスの作ったごはん、毎日食べたい」そう言って、たくわんをバリバリとかじりながら大泣きするので、なんだかおかしくて、そしてうれしかった。

それから安心したのか、彼女はぼくの隣ですやすやと眠った。

翌朝はホットケーキを焼いて食べさせ、ぼくが仕事に行っている間に花ちゃんはマーちゃんと遊び、ランチは作り置きしておいた野菜スープとグラタンを温め、ぼくが帰宅してから夕飯を食べさせた。エビフライを揚げ、白味噌汁には花の大好きな生麩を入れた。特にキュウリの浅漬けをよろこび、彼女は茶碗飯2杯をおかわりした。花ちゃんは昔から、ぼくが漬けた漬け物が好きだ。糠漬けたくわんに水茄子に瓜の古漬け、塩分が心配になるぐらい、いっぱい食べる。だから夜食にはリンゴを食べさせた。リンゴは「医者要らず」と呼ばれてるよね。

そして連休が明け、花ちゃんは○パホテルへ移った。おにぎりを結び、花ちゃんの好物のだし巻き卵を弁当にして持たせた。花ちゃんはぼくの作ったごはんをいつも残さず食べる。