町の調剤薬局の
待合室
いくつも並んだ
青い椅子のひとつ
その上に
豆粒ほどの
グレゴール・ザムザが
波打つ脚をばたつかせ
腹筋運動をしていた
周りにいる患者たちは皆
その椅子を遠巻きにして
グレゴールの存在に
見て見ぬふりをしている
波打つ脚の
豆粒ほどの存在が
人一人分の空間を
占有している
小さなゴミ箱が
すぐそばにあることに
気づいた私は
ティッシュペーパーを
一枚取り出し
腹筋運動に励むグレゴールを
そっと包んで
そのままゴミ箱に入れた
しばらくすると
一人の患者が
グレゴールの存在など
はじめからなかったかのように
なにくわぬ顔をして
その椅子に座った
小さなゴミ箱の中の
憐れなグレゴール
やがて飢えて死ぬか
収集されて焼かれて
死ぬだろう
それでも調剤薬局では
何人もの患者が
薬の説明を受け
代金を支払って
薬を持って家へと帰ってゆく
なんでもない日常の中で
かつては波打つ脚を
ばたつかせながら
人一人分の空間を占有した
グレゴール
その存在を
顧みるものはなかった
彼は来世には
飢えることも
すぐに取り除かれ
焼かれてしまうこともない
人間に生まれ変わるだろうか
そうであってほしいと
ひそかに願った