そのモノクロームの獣は
沈黙の氷河期を生き延びた

凍てつく世界の深層へと
幽隠されてしまった食料の乏しさを
硬い竹を食べることでしのいだ

咀嚼の要求に鍛えられた筋肉に
その顔の輪郭は丸くなり
体力の損耗から逃れるために
その動きは氷河の如く緩慢となった

そうして陰鬱なる氷雪の時を
生き延びた彼らはそののち
人間という獰猛な獣に遭い
その住処と命を次々と奪われ
絶滅への扉を叩くまでになった

やがて人間どもの拙い反省から
手厚く護られるようになり
野生生物保護のシンボルとして
高く掲げられるようになった
モノクロームの獣たちだが

それでもなおその生存には
観光資源と外交カードという
重い軛を押し着せられて
その運命を人間どもの欲望に
握られたままだった

獰猛な人間どもに喰われるような
そんな境遇に在っても彼らは
人間を喰らうことはなかった
ただ硬い竹を食べていた
それが遠い昔日に
彼らが選びとった道だからだ

その道は遥かなる未来へと
続いているのだろうか
その道とは
まだ見ぬ明日の彼方に
愚昧なる人間どもが
たどることになるであろう道の
冷徹なるシノニムなのか

青竹の間に見え隠れするモノクロームの影
深い雲霧のようなその行く末に
自分たちの未来が映っていることに
重い軛を自らも背負っている人間どもは
気づいているのだろうか

丸い輪郭の獣は素知らぬ顔をして
硬い竹をかじっている