何の変哲もない
一本の鉛筆が
目の前にある
一片の紙に
文字を書き連ねてゆく
紙には
目に見えぬ文字が
投射されていた
その顕れぬ文字を
鉛筆はなぞって
書いていたのであった
今では殆ど見なくなった
感熱紙や印画紙のように
その紙は
投射された文字を受け取り
その鉛筆は
不可視なる文字を観取し
忠実にたどってゆく
一片の白紙の面に
顕れぬ文字を投射するのは
「伝えたい」という想い
紙と鉛筆は
目えない文字を通して
切なる「想い」を感取していた
無垢な紙の上で
鉛筆を持つ手は
その健気なはたらきに
ただ付き従うだけであった
時が訪れれば
漆黒に覆われた夜空に
新月が再び
輝きを取り戻すが如く
何の変哲もない一本の鉛筆と
何も記されていない一片の紙が
想いの灯火を点しつつ
暗闇の空間だけでなく
時をも超えて
光を待つ人へと
堅牢なる魂の鎖をつなげてゆく