誰も目をやらぬ
部屋の片隅で
リュックサックが
咆哮している
己の存在を誇示するため
己の存在を知らしめるため
荒々しくも
もの哀しい声で
咆哮している
遥かいにしえの世に
戦のために生まれ
その後には山へと
登るために用いられた
リュックサックが
戦場にも山にも
往くことのない
街に住む民の部屋の
うら寂しい
部屋の片隅で
咆哮を撒き散らしている
戦はまだ終わってはいない
険しい道は尚も続いている
敵は恐ろしい天変地異
自然を搾取し尽くした
お前らへ報復するために
襲いかかってくるのだと
咆哮するリュックサックは
己の内に武具を詰めろと
家人に迫ってくる
生き延びるための戦
生き残るための戦
そのための武具を
詰めることを求めてくる
天変地異が轟かせる
恐ろしい音にも負けぬよう
そして今まさに
油断している人間どもの
かしましく脳天気な音楽に
かき消されぬよう
薄暗く埃の溜まった
部屋の片隅で
忘れ去られようとしていた
リュックサックの執念が
荒々しくも
もの哀しい声で
旧い朋友へ咆哮してくる