今年の粉飾を把握する〔2015年〕- 流行語の誕生 - | OX理論が測る企業価値

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26年前、資金繰りに特化した財務分析手法が産声をあげた。
それは、【あらかん】から【OX理論(アラーム管理システム)】へと進化を遂げた。
【OX理論】を土台として、企業分析にいそしむALOX社専属ライターのメールマガジン、それに付随するこぼれ話を掲載。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2015.10.20
【Alox】  『第三の眼 ~看破する力~ 』  http://alox.jp/    vol.15
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◆ 目 次 ◆


【1】  今号の一言   『フォルクスワーゲンの詐欺』

【2】  本文        『今年の粉飾を把握する〔2015年〕- 流行語の誕生 -』

【3】  編集後記     『大浴場で“二度見”する』


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【1】  フォルクスワーゲンの詐欺
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欧州最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲンが、
排ガス規制検査の時だけ排気ガスを抑えるように稼働するソフトウェアを
車に搭載し、基準値をクリアしているように見せかけていた。

この不正ソフトウェアは、約1100万台のディーゼルエンジン車に搭載されている。


誰がどう見ても詐欺であり、フォルクスワーゲン社もそれを認めて謝罪し、
リコール及び損害賠償へ向けた準備を行っている。

この影響は、尋常ではない。



【影響】
(1)フォルクスワーゲングループの弱体化
この事件は、そのまま倒産へ直結するレベルのものである。
しかし、日本でも例があるように“大きすぎて潰せないロジック”により、
フォルクスワーゲン単体で耐えることができない場合は、ドイツ政府が支援するだろう。
それゆえ、倒産はしない。

しかし、しばらくフォルクスワーゲンの車は売れず、
青天井の訴訟費用対応で、アウディやポルシェ等の各種ブランドを
維持できるかは甚だ疑問だ。


(2)フォルクスワーゲン向け部品製造会社の苦境
車が売れないということは、部品メーカーも苦境に陥るのは自明である。
フォルクスワーゲン依存の部品メーカーの業績悪化は避けられない。
(ドイツのヴォルフスブルクという企業城下町の地盤沈下や
同名のサッカークラブも一部を維持することが困難だ。)


(3)中国のさらなる景気悪化
フォルクスワーゲンの最大生産地は中国である。
今回の影響で減産は間違いなく、20拠点存在する工場を維持することは
できないだろう。

ただでさえ、不安定な経済状況の中国が、さらなる混乱へ陥る可能性があり、
ひいては日本のみならず、世界経済へのネガティブインパクトを
もたらすことになるかもしれない。



それでは、毎年恒例の“決算書詐欺”というべき粉飾についてレポートする
「今年の粉飾を把握する」をお楽しみください。



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【2】  今年の粉飾を把握する〔2015年〕- 流行語の誕生 -
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【不適切な会計処理】
今年も企業評価の“眼”を更新することを目的として、
『上場企業の不適切な会計処理』のリリースをまとめたレポートをお送りします。



【21件のリリース】
今年は21件(京王ズホールディングスは2回リリース)の
「不適切な会計のリリース」があった。

21件という件数は、ここ6年の中では2番目に多い件数である。
(2014年14件、2013年20件、2012年29社、2011年17件、2010年15件だった。)

<不適切な会計処理をリリースした会社一覧>
〔リリース〕  〔市場〕    〔社名〕
2014年10月 ジャスダック SJI
2014年10月 ジャスダック 石山 Gateway Holdings
2014年10月 東証1 虹技
2014年11月 東証1 オカモト
2014年11月 マザーズ エナリス
2014年12月 東証1 日本道路
2014年12月 東証1 アゴーラ・ホスピタリティー・グループ
2014年12月 マザーズ 京王ズホールディングス
2015年01月 東証1 積水化学工業
2015年01月 ジャスダック グローバルアジアホールディングス
2015年01月 東証2 バリューHR
2015年02月 札証 ロジネットジャパン
2015年03月 東証1 ジャパンベストレスキューシステム
2015年03月 マザーズ 京王ズホールディングス(2回目)
2015年04月 東証1 東芝
2015年04月 東証1 東邦亜鉛
2015年05月 東証1 北越紀州製紙
2015年05月 東証1 KDDI
2015年05月 ジャスダック ケイブ
2015年08月 ジャスダック サンリン
2015年08月 東証1 リンクアンドモチベーション


<不適切な会計処理 リリース概要一覧表>
http://alox.jp/wp-content/uploads/2015/10/151015_2015dressing.pdf



【不適切な会計処理の型】
粉飾をその手法等に基づき、
「売上加工」「過少計上」「混在」「その他」の4つに分類した。


<売上加工>
バリューHR、ジャパンベストレスキューシステム、KDDI


<過少計上>
虹技、オカモト、日本道路、京王ズホールディングス、
東芝、ケイブ、サンリン、リンクアンドモチベーション


<混在>
石山 Gateway Holdings、エナリス、積水化学工業、
グローバルアジアホールディングス、東邦亜鉛、北越紀州製紙、SJI


<その他>
アゴーラ・ホスピタリティー・グループ、京王ズホールディングス、
ロジネットジャパン


今年は珍しく“循環取引”がなかった。
売上そのものの粉飾というよりも、「利益計上の前倒し」や
「経費の先延ばし」といった過少計上による利益捻出型の粉飾が多かった。



【今年の不正実例】
今年も各社において、下記のような不正行為が行われた。


〔石山 Gateway Holdings〕
仕入先の辛社のY氏の署名が
「同一文字・楷書(引き写し)又は写し撮った画像を張り付けたものである」
という鑑定結果だった。



〔オカモト〕
不正関与者が、システム上に架空の品番コードを作成して、
任意の数量と単価を入力して架空の棚卸資産を創出するとともに、
当該架空の棚卸資産の棚札を追加作成して、正規に作成・回収された
棚札の束に紛れ込ませ、システムと棚札の両面から、
架空の棚卸資産が実際に存在するかのように装っていた。



〔エナリス〕
回収の見込みのない販売代理店のGV社とGW社へ機器を販売し、
一度も支払いを受けることなく、最終的には契約解除して、
機器の返品となった。



〔日本道路〕
得意先と工事請負金の分割に係る覚書を締結した上で、
分割元の工事については工事請負金を減額せずに、
分割された工事請負金を別の工事へ増額処理していた。

この結果、工事進捗状況及び原価の発生状況によって、
完成工事売上高の過大計上が行われた。



〔京王ズホールディングス〕
退任したA元社長の個人的な使用にかかる費用を、
D元監査役がG副統括、AD氏、AE氏、AF氏といった当時在籍していた
従業員の名義を無断で用いて精算していた。



〔グローバルアジアホールディングス〕
スポンサー候補者となった者がスポンサーを辞退した件で、
BY氏はAB氏から
「大変なことをしてくれた」
「(対象会社)に1億円を付けないととんでもないことになる」
「輩が来る」
「対象会社に1億円の資金が入るようなんとかしろ」と脅された。

BY氏は新たに別のスポンサー候補者を紹介したが、交渉が決裂したため、
BY氏はAB氏から軟禁された上、
「1億円はお前が作れ」
「外に車が有るから乗れ」と脅され、
5500万円を対象会社の口座に振り込むことを書面で約束させられた。

その後BY氏がAB氏と面談したところ「録音してたら、ただじゃおかねーぞ!」
「(金を)作ってこい!」等と脅された。
後日、BY氏はAB氏に言われるままに合計500万円を渡した。



〔ジャパンベストレスキューシステム〕
元取締役のB氏は、D氏(取締役加盟店サポート部長)及び
C氏(経理グループシニアマネージャー)に対して、
「(本件不正行為に関して)正直に話をすると、自分(B氏)がダメになる。
私(B氏)がダメになると、会社ぐるみということになり、上場廃止になる。
だから、すべてU氏(不正売上実行者)のせいにするように。」という
発言を行っていた。



〔北越紀州製紙〕
X氏は、小切手を不正に振り出し、これを換金することにより着服した。
その金額は、9年間で累計で1,637 百万円(年間平均181百万円)であった。

X氏は、着服金の穴を埋めるため、架空の商品在庫や前払費用を計上して、
その事実を隠蔽した。また、平成17年3月期からは一部借入金を
オフバランスにする(振り出した小切手を換金して現金を着服し、
同時に借入金を計上しない)ことで着服金の隠蔽を行っていた。



〔サンリン〕
架空仕入先として使用していた業者で実際の取引(実在仕入)が
発生した場合は、事前に真正な請求書の封筒に当支店宛先名の他に
当事者名も記載して送付するよう依頼し、下請業者から当支店に郵送等により届いた
真正請求書は自ら開封して当支店の仕入業務担当者には提出せずに、
真正請求書にある実際の取引とあわせて架空仕入を追加し、
実在仕入と架空仕入の混在した偽造請求書を自らパソコンで作成して当支店出納担当者へ提出し、
月末等に現金支払をするから用意をして置くよう指示をしていた。

その後、会社金庫より現金を預かり、偽造作成した社名ゴム印、社印を押印した
偽造領収証を当支店出納担当者に提出し、支払を済ませたことを装い現金を着服していた。



〔東芝〕
財務部は、カンパニーによる前月の実績及び当月の見込の報告を踏まえ、
各カンパニーにどのように業績改善の指示(「チャレンジ」と呼ばれる。)を
行うかを社長に提案し、社長がチャレンジの内容を決定していた。


ODM先と協議の上で、期末月において、正常な生産行為に必要な数量を
超えた数量の部品をODM先に対して販売し在庫として保有させることにより、
利益の嵩上げを行っていた。
ただし、これは翌月以降の利益が悪化することとなるため、関係者はこれを
「借金」と呼んでいた。


社長が、「借金を(余分に)減らそうとして、出るものは出さないのはダメ。
借金はソフトランディングで返せと言っている。自分達の予算はこうだけど、
借金は下期予算を下回っても返済と言うことであれば、自分の安全、会社の危険だ。」
「3Q で出た利益を使って借金を余分に返済して前回通り、借金だけ返済して、
予算は達成しましたなんて言うことであれば、賞与の査定は2段階引き下げるから。」
と述べた。


社長は、デジタルプロダクツ&サービス社に対し、
残り3日での120億円の営業利益の改善を強く求めるとともに、
検討結果を翌日に報告することを求めた。



【ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書】
独断と偏見に基づく、今年の一読に値する報告書は、東芝である。

当然と言えば、当然の結果であることは承知している。

“粉飾という言葉を使わないマスコミの風潮”や
今年の流行語としてノミネートされても不思議ではない
新経済用語として誕生した“チャレンジ”。

これらを勘案すると東芝を選ばざるを得ない。


東芝の報告書の最終ページには、
「PC事業月別売上高・営業利益推移(2005年4月~2015年3月)」の
グラフが掲載されている。

そのグラフを見ると、2012年9月以降、四半期の末月において、
“売上を超える利益”が計上されており、行き過ぎた“チャレンジ”を
如実に表している。


<東芝_調査報告書(2015年7月21日)>
http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150721_1.pdf



東芝には、小さい頃からブラウン管テレビなどの
家電等で大変お世話になるとともに、知り合いも多数いる。
それゆえ、できれば「ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書」には
選びたくなかった。

こういう言い方が適切か分からないが、何とか上を向いて、
頑張って頂きたいと切に思います。



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【3】  大浴場で“二度見”する
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二度見とは、「一回目に目にした事象を現実として受け止められず、
再度見る行為」だと私は解釈している。


先日、ビジネスホテルの大浴場で、“二度見”した。

湯船につかり、何も考えずにリラックスしていた時だ。

ふと、湯船につかっている人を何とはなしに眺めた。

およそ2名いたが、左奥にいる人を“二度見”した。


大浴場で小説を読んでいた。


家ならば、分かる。

私も、学生の頃、推理小説に夢中になり、
湯船につかりながら本を浴槽の蓋の上に置いて、読んだことがある。


しかし、大浴場で小説を読んでいる人は、初めて目にした。

当然、大浴場なので、浴槽の蓋はない。

そう、湯につからないように、両腕を一定の位置でキープしながら読むのである。

さらにさらに、水対策をせずにノーガードで読んでいた。

つまり、腕を一定の位置にキープしながら、“紙”の小説を湯船の上で読んでいた。


脳が現実を受け入れることができなかったので、その後も何度かチラ見したが、
そこには「絶対に見間違いではない光景」がありました。


風呂から上がってから、「どんだけ読みたい小説なんだろう、
何というタイトルなのか、東野圭吾の小説なのか?」
「あれは紙に見えたが、実際には、技術進歩で防水対策済みの本かもしれない。」
などと、想像を掻き立てる、楽しい“二度見”でした。



今年もあと3ヶ月を切りました。そろそろラストスパートです、気分的に。(塙)


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