決戦は関係人集会 - エルピーダメモリ - | OX理論が測る企業価値

OX理論が測る企業価値

26年前、資金繰りに特化した財務分析手法が産声をあげた。
それは、【あらかん】から【OX理論(アラーム管理システム)】へと進化を遂げた。
【OX理論】を土台として、企業分析にいそしむALOX社専属ライターのメールマガジン、それに付随するこぼれ話を掲載。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2012.04.02
オックススタンダードメールマガジン 『 S T A N D A R D 』
http://www.ox-standard.co.jp/
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◆ 目 次 ◆

【1】  今号の一言   『多重債務者=ギリシャ』

【2】  本文        『決戦は関係人集会 - エルピーダメモリ - 』

【3】  編集後記     『東日本大震災から1年と22日』


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【1】  多重債務者=ギリシャ
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ギリシャは、“多重債務者”である。

「多重債務とは、すでにある借金の返済のために借金をすることを
繰り返し、利息や借金の額が雪だるま式に増え続ける状態のことを言う。」

一般的に、多重債務を解消するために、任意整理や調停または自己破産の手続きが
取られる。


ギリシャは、任意整理を実行した。

借金の7割を棒引する一方で、2012年3月20日には
欧州連合から59億ユーロ(約6500億円)、
国際通貨基金から16億ユーロ(約1800億円)の融資を受けた。

この借入の返済のためには、経済成長と緊縮財政が必要なのは言うまでもないが、
今のギリシャままでは不可能である。

遅かれ早かれ、多重債務者の最終手段を利用するだろう。
つまり、自己破産(デフォルト・債務不履行)である。


本来、すでにギリシャは「一部の借入に対して支払いを払わない」という宣言を
したため、デフォルトなのである。

しかし、詭弁としか言いようがない“管理されたデフォルト”、
“制限的・選択的デフォルト”という表現が使われ、デフォルトという事実が
ぼかされており、まるで“デフォルトが起きていないかのような空気”が醸成されている。

だが、遠くない将来に“完全なるデフォルト”になると考えといた方が賢明だろう。


ところで、日本ではギリシャ債務危機の回避を一因(他の理由もあるが)
として日経平均株価が1万円を超えたという報道がなされている。

ジョークにもならない冗談とは、このことを言う。

それでは、本文をお楽しみください。



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【2】  決戦は関係人集会 - エルピーダメモリ -
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【報道概要】
2012年2月27日、半導体メモリーのDRAM※世界3位で
経営再建中のエルピーダメモリ(6665)が会社更生法〔DIP型※〕の適用を申請した。

製造業の倒産としては過去最大、負債総額はで4480億円となる。

DRAM市況の悪化、半導体大手企業との資本・業務提携の難航、
借入金返済に充てる資金調達の目途が立たず、倒産した。



〔DRAMとは〕
コンピュータなどに使用される半導体メモリの1種。
コンピュータの主記憶装置やデジタル・テレビや
デジタル・カメラなど多くの情報機器の記憶装置に用いられる。



〔DIP型会社更生法とは〕
裁判所の監督の下に、管財人として“現経営陣”が債権者や
株主等の関係者の利害を調整し、株式会社の事業の維持更生を
図ることを目的とする再生手続である。

詳細は、下記の『倒産を理解する[総合レポート]』をご参照ください。
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/101227/bankruptcy_series.pdf



---- アラーム管理システム(OX理論)の分析情報 ----

【会社概要】
社  名      エルピーダメモリ株式会社
市  場      東証1部
証券コード     6665
業  種      電気機器
従業員数     5957人(連結)
所在地       東京都中央区八重洲2-2-1 住友生命八重洲ビル
監査法人     新日本有限責任監査法人(2011年3月期)


【OX理論】
OX格付       CCC【8】(2009年3月連結決算)
OX格付       BB 【26】(2010年3月連結決算)
OX格付       A  【70】(2011年3月連結決算)

【分析表1・7】
$OX理論が測る企業価値
$OX理論が測る企業価値

http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/120331/elpida201203_ren.pdf

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<OX理論(アラーム管理システム)とは>
$OX理論が測る企業価値
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/oxanalysis.pdf
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---- 終了 ----



【2009年に“半国有化”】
OX理論の低評価からも分かる通り、エルピーダメモリは2009年に
財務破綻していた会社である。

けれども、「DRAMは日本の基幹産業」と位置付けた
経済産業省の肝いりによって発足した産業革新機構の第一号案件として、
エルピーダは300億円の公的支援を受けた。

また、銀行から1000億円の融資を受けることによって、
財務の脆弱性を一掃した。



【余力のある内に倒産する意図】
エルピーダメモリが2012年2月27日にリリースした
『会社更生手続開始の申立てに関するお知らせ』には、下記の記述がある。


「以上のような経過により、当社がこのまま自力で事業継続した場合、
その資金繰りが早晩破綻することは必至な状況となりました。
また、仮に現状を放置して資金繰りの破綻が現実化した場合、
当社の企業価値は著しく毀損し、スポンサーによる資金提供等の
途も事実上絶たれ、債権者の皆様を始めとする関係各位に対して
より多大なご迷惑をお掛けすることが想定されました。
そのため当社は、やむを得ず、会社更生法の手続に従って
抜本的な財務及び事業の再構築を行うことによって会社再建を
目指すこととし、本日申立てを行うに至りました。」


<会社更生手続開始の申立てに関するお知らせ_2012年2月27日>
http://www.elpida.com/pdfs/pr/2012-02-27j.pdf



エルピーダメモリというより、坂本社長は自力再建の万策が尽き、
資金繰り破綻が確実となったことを踏まえ、会社の継続のために何を行うべきか
思案し決断したものと思われる。

つまり、「資金繰り破綻という事実が起こる3月ではなく、
まだ余力の残っている2月の内に会社更生法を申請することによって、
DRAM事業の継続に必要な債務の減免と新スポンサーを
得やすい環境作りができる」を考えたのだろう。

それゆえに、非常の手段も実行した。



【倒産3日前に預金の移動】
エルピーダメモリは、倒産する3日前に主要取引銀行から、
取引の無かったりそな銀行へ運転資金を確保するために250億円の預金を移した。

この行為によって、銀行とエルピーダメモリの信頼関係は崩壊した。

しかし、そこに元々、信頼関係があったかどうかは疑問である。

こんなことをすれば、誰でも信頼関係が崩れることは、分かるはずだ。

それでも尚、預金を引き出した理由は、「債権者ではない銀行に預金を移すことによって、
会社更生手続き中の資金繰りに融通を持たせたい、管財人(経営者も含む)の意思を
資金の使途に反映させたい」と考えたからではないだろうか。



【会社更生手続きにおける関係人集会】
今後の焦点は、会社更生手続きにおける関係人集会において、
更生計画が可決されるか否かである。

すでに、エルピーダメモリは会社更生手続きを開始しており、
現在は管財人によってスポンサー探しがなされている。

一説によると東芝、マイクロン・テクノロジー、ハイニックス、
グローバルファウンドリーズ、さらにはインテルやアップルの名前まで
上がっており、余程のことがない限り、「スポンサーが見つからない」
という事態はないだろう。


スポンサー選定の目星がつけば、管財人によって更生計画案が
作成され、裁判所へ提出される。

その後、更生計画の賛否を債権者に問うための書面投票を行われる。

この投票において、更生債権者の議決権の総額の1/2以上の同意や、
株主の議決権の総数の過半数の同意等が必要とされる。


ここで債権者である銀行の対応に注目が集まるのは間違いない。

倒産直前に預金を引き出された行為に対して銀行が感情的に反応すれば、
更生計画が否決される可能性もある。

一方、更生計画の内容とその実現可能性、弁済率等によっては
賛成する可能性もある。

おそらく、「銀行が現経営陣の継続を許容するかどうか」が
最も大きなハードルとなるのではないだろうか?



【坂本社長】
エルピーダメモリの坂本社長は、
NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』にて特集されるほどの
立志伝中の人物である。

資材の倉庫係から取締役まで上り詰めた後、
再生請負人として数社を再建させたのは見事である。

この坂本氏の経営手腕を持ってしても、技術力の向上と共に
ウォン安を背景とした韓国勢の攻勢に太刀打ちできなかった。

昨今、坂本氏への批判が渦巻いているが、
坂本氏以上の手腕を発揮できそうな人物は見当たらず、
見当違いな批判に見える。

私も、倒産直前に預金を引き出した行為を知った時は驚いたが、
考えれば考えるほどに、また坂本氏の経歴を踏まえると、
「事業継続のために経営者としてやるべきことを果断に実行した」と
理解するようになり、今は預金の移動を“素晴らしい経営判断”と
捉えている。




【総括】
日本唯一のDRAMメーカーであるエルピーダメモリが廃業した場合、
日本はDRAMを韓国や米国から輸入することとなる。

DRAMなくして、日本の製造業は成り立たない。
そのDRAMを「海外企業に依存することを良し」と判断する人は、少数だろう。

一方で税金によって、エルピーダメモリを支援し続けることは考えにくい。
また、坂本氏に代わる経営者は、世界を見渡しても、探すことは困難だ。

それゆえ、債権者の銀行には一時の感情に左右されることなく、
新スポンサーと共に、坂本氏率いるエルピーダメモリの再建のために、
真摯な姿勢で関係人集会に臨んでほしいものである。



※ 参考資料
NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』「勝負の決断はこうして下せ」
http://www.nhk.or.jp/professional/2007/0508/index.html

週刊ダイヤモンド『エルピーダがついに経営破綻 生殺与奪にぎる支援会議の“空転”』
http://diamond.jp/articles/-/16369

産業革新機構『投資先一覧』
http://www.incj.co.jp/investment/deal_list.html


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【3】  編集後記   東日本大震災から1年と22日
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東日本大震災から1年と22日が経過した。
被災地は、悲しみを胸の内に抱えつつ、復興へと歩き出している。


時とともに、悲しみは深まりこそすれ、無くなることはない。
しかし、時とともに悲しみと一緒に暮らせるようにはなれるはずだ。
そのようになるための支援を国や民間のボランティアが行うべきだと考える。



一方で、時とともに、直面した恐怖を人は忘れる。
福島原発によって、放射能汚染の恐ろしさは、身をもって感じたはずだ。


福島原発付近は、人が住めない地域となった。
つまり、人によっては故郷が失われた。
この喪失感は大きい。


しかも、原発は、放射性廃棄物という最低でも50年間は
管理し続けなければならない遺物まで残していく。


関西電力の大飯原発の再稼働が検討されているが、
“超”地震列島の日本で原発は、そぐわない。


日本国民は原発以外の選択肢があるならば、節電とともに
多少の高コストの電気料金だとしても、そちらを選ぶ。


日本企業にとって、高い電気料金は経営を圧迫するかもしれないが、
国の政策次第でどうにでもなる話であり、工夫の余地は残されている。


地域をまるごと失うリスクのある原発は、
“最も高コスト”と考えるのは飛躍した考え方でしょうか???


(念のためお伝えしますが、私はその筋の運動に参加しておりませんし、
参加する予定もありません。ただ、原発撤廃については、
一人の人間として、日本人として、賛成を表明します。)



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