債権者は子会社 -TCBホールディングス- | OX理論が測る企業価値

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26年前、資金繰りに特化した財務分析手法が産声をあげた。
それは、【あらかん】から【OX理論(アラーム管理システム)】へと進化を遂げた。
【OX理論】を土台として、企業分析にいそしむALOX社専属ライターのメールマガジン、それに付随するこぼれ話を掲載。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2010.10.31
オックススタンダードメールマガジン 『 S T A N D A R D 』
http://www.ox-standard.co.jp/
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◆ 目 次 ◆

【1】今号の一言『カントリーリスク』

【2】本文    『債権者は子会社 -TCBホールディングス-』

【3】編集後記

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【1】今号の一言『カントリーリスク』
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2010年10月、3社の上場企業が倒産した。

<社名>     <証券コード> <市場> <破綻日>
大和システム        8939     東2   10月1日
ラ・パルレ            4357     JQ    10月5日
TCBホールディングス   2356     MO    10月20日

[市場]東2=東証2部、ジャスダック=JQ、マザーズ=MO

倒産原因は、「事業再生ADR手続きの不調」や
「日本振興銀行破綻の連鎖」などである。


倒産の原因は種々あるが、“倒産予知の観点”で企業分析する場合、
最重要視すべきことは“資金繰りの評価”だ。

それは、たとえ収益が悪化しようとも「資金が続く限り会社は
存続できる」からである。


ただ、これは日本を含む西側世界(資本主義国家)の企業を
分析する場合の話である。

社会主義や共産主義国家の企業を分析する場合は、
資金繰りの評価よりも、“人の評価”が重要である。

企業の社長が「社会をコントロールする組織や機構、政治家」と
どれ程の“繋がり(連帯)”を有しているか把握する必要がある。

社会主義や共産主義の世界では、この“繋がり”が
重要視されるため、西側諸国民はしばしば非論理的な事象に直面し、
困惑する。


カントリーリスク”、この言葉を噛みしめる必要がある。


それでは、本文をお楽しみください。

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【2】『債権者は子会社 -TCBホールディングス-』
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【報道概要】
2010年10月20日、TCBホールディングス株式会社
【マザーズ:2356】 は、東京地裁に自己破産を申し立て、
破産手続き開始決定を受けた。
負債総額は約2億5823万円。

持株グループ会社移行後に実施した新オフィスへの移転費用及び
同オフィスの賃料負担並びに過大な人件費負担で資金繰りを圧迫し、
今回の措置となった。

子会社のTCBテクノロジーズ、フリーポート、
ディーアンドアール・インテグレイツは破産手続きの対象外のため、
通常通り営業を継続する。



---- 分析情報 ----

【会社概要】
社名        TCBホールディングス株式会社
市場        東証マザーズ
証券コード     2356
業種        情報・通信
従業員数      73人(連結)、12人(単独)
所在地       東京都渋谷区道玄坂2-6-17
監査法人      東邦監査法人

破綻日        2010年10月20日
負債総額      2億5823万円

【OX理論で分析】
OX格付       B 【19】(2010年3月連結決算)

【分析表1・7】
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/101029/TCB-HD.pdf


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<OX理論(アラーム管理システム)とは>
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/100930/oxanalysis.pdf
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---- 終了 ----



【異常に少ない負債総額】
TCBホールディングス倒産の情報を目にした時、
ある数値に強烈な違和感を感じた。

それは、負債総額である。

上場企業の倒産で、負債総額が2億5000万円
思わず、「そんな少ないわけがないだろう」と
いう言葉を発した。



【負債総額ランキング】
直近3年間に倒産した上場企業の負債総額を調べた。

通常は、負債総額の大きい順に並べて、
倒産の影響度合等を推し量るものだが、
今回は負債総額の少ない順に並べた。


<順位> <社名>  <負債総額> <破綻年>
01 TCBホールディングス  3億円   2010年
02 アプレシオ         22億円   2009年
03 トランスデジタル     26億円   2008年
04 ラ・パルレ         27億円   2010年
05 トスコ            33億円   2008年

~中略~ 

60 SFCG         3380億円     2009年
61 武富士        4336億円     2010年
62 日本航空       6716億円     2010年

※ 億円以下は四捨五入で切り捨て
※ 2008年~2010年10月28日までの上場倒産データに基づいて作成
※ TCBホールディングスの負債総額は2.58億円だが、
四捨五入の結果、3億円と記載。

【負債総額少ない順ランキング-詳細版】
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/101029/debt2008-201010.pdf



TCBホールディングスの負債総額は、
過去のデータと比較した結果、他の追随を許さない程の少なさで
あることは間違いないようだ。



【考察】
なぜ、こんなにも負債総額が少ないのか?

それは、純粋持株会社である親会社のみが、破産するからである。
“100%子会社”の事業会社3社は破産手続き対象外であり、
これまでと同様に事業継続される。
それゆえ、負債総額に組み入れられるのは、
純粋持株会社の単体のみとなる。



【株主軽視】
上場している親会社のみが破産し、
非上場の100%子会社は事業を継続する。

これは、株主軽視と言われても仕方がない。

株主から見れば、民事再生や会社更生によって、
TCBグループの再建を目指すならば理解できるだろう。
しかし、上場している親会社のみが破産によって解散し、
「非上場の100%子会社は事業継続します」と
言われても納得できる訳がない。

なぜなら、株主から調達した資金によって、
TCBグループは運営されており、当然子会社も親会社を経由して
その恩恵を受けているからだ。


ちなみに、倒産時(10月20日)の株価は、33,000円である。
時価総額も、上場廃止基準に抵触している企業が多数ある中、
5億円を超えていた。
つまり、「破産を想定してい株価ではなかった」と言える。



【会社の新設分割】
破産の原因と直接関係があるのか不明だが、
TCBホールディングスの誕生の経緯は、興味深い。

会社の沿革から、その興味深い箇所を指摘する。

<沿革>
1996年07月  トーメンサイバービジネス設立

→社長は、トーメン(現 豊田通称)出身の西村 拓美氏。
実質的な創業者の位置づけにあたる人物である。
2010年1月まで代表権を有する社長または会長だった。 


2003年03月  東京証券取引所マザーズに株式上場
2004年03月  ダイワボウ情報システムが筆頭株主となる
2006年10月  社名をTCBテクノロジーズに変更
2009年08月  ディーアンドアール・インテグレイツ、
        フリーポートの100%株式を取得し、完全子会社化
2009年09月  持株会社制を採り商号を
         TCBホールディングスに変更。
         経営管理以外の全事業を新設分割により設立した
         TCBテクノロジーズが承継

      →自社はTCBテクノロジーズから
       TCBホールディングスに社名変更した。
       同時に、この当時の社名であるTCBテクノロジーズと
       全く同じ社名のTCBテクノロジーズを新設し、
       そこに経営管理以外の全事業を承継させた。

       この新設されたTCBテクロノジーズは、
       『TCBホールディングス有価証券報告書
       2010年6月24日提出』によると親会社が赤字である一方で、
       売上4億円、経常利益2000万円、当期純利益800万円を
       計上している。


2010年01月  代表取締役会長の西村 拓美氏辞任
2010年02月  代表取締役社長の山本 宰司氏辞任
         社外取締役だった大嶽 貞夫氏が
                代表取締役社長に就任
2010年04月  西村 拓美氏がTCBテクノロジーズの
          代表取締役社長辞任。だたし、取締役としては留任
2010年10月  TCBホールディングスが破産
         子会社のTCBテクノロジーズ(他2社)は
         破産手続き対象外

      →TCBホールディングスは、誕生してから、
       たった1年で破産した。
       一方で、創業者は、事業会社である新設された
       TCBテクロノジーズに存在するようだ。



【債権者】
インターネットの情報によれば、TCBホールディングスの債権者は、
下記の通りである。


<社名>               <債権額(千円)>
TCBテクノロジーズ          79,696
みずほ銀行               39,600
ディーアンドアール・インテグレイツ 35,941
ジェイアンドエムキャピタル      30,059
フリーポート                26,656
東京センチュリーリース        10,490


※ 参照元URL:JC-NET
http://n-seikei.jp/2010/10/post-1448.html

※ 決算書における負債には、
子会社からの借入金等が含まれている。
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/101029/sub_debt.pdf

(参照元:『TCBホールディングス有価証券報告書2010年6月24日提出』)


つまり、債権者の大半は、子会社である。
(総額約2億2千万円の債権額の内、
1億4千万円は子会社が債権者である。)


通常、破産手続きによって、裁判所から選定された破産管財人が、
会社の財産を管理、調査、換価し、債権者に配当する手続きを行う。

TCBホールディングスの場合、
破産管財人が子会社株式を評価及び換金する。
そして、“子会社だらけの債権者集会”が開かれ、
子会社への配当が実施されるという構図を描くことになる。



【総括】
悪意があるかどうかは不明だが、
TCBホールディングスは、
まるで“倒産を目的とした特別目的会社”のようだ。

誕生からたった1年で破産し、
破産管財人によって保有していた子会社株式は換金され、
債権者である子会社に配当される。


今後の焦点は2つだ。
1.子会社株式の譲渡先
破産の手続きは順調に推移した場合、最終的に誰の手に
子会社株式が渡るのか?

それは、TCBテクノロジーズの技術や製品に興味がある企業や
シナジーが期待できる企業が候補となるが、
TCBテクノロジーズ自身が株式購入に手を挙げる可能性も否定できない。
(この場合、“親会社倒産経由の自社株の安値購入”と言える。)



2.経営陣の責任
TCBホールディングスの破産時、社長である大嶽 貞夫氏は、
破産手続き対象外の子会社(ディーアンドアール・インテグレイツ)の社長を
兼務していた。

その子会社(ディーアンドアール・インテグレイツ)は、
TCBホールディングスへ融資を行っている。
それゆえ、ディーアンドアール・インテグレイツは、債権者である。

「利益相反に近しい形態がある」というのは言い過ぎだろうか?
経営陣の責任を問う訴訟が起きても全く不思議ではない。
これほど、株主を蔑ろにした破産は前代未聞である。


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【3】編集後記
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前回の『倒産3ヶ月前の20億円配当金-武富士-』は、
思いの外、評判が良かった。

おそらく、皆さんも“不誠実な配当金に対する怒り”があった
ものと推察されます。


次号は、【OX(解説)】を配信予定です。
倒産法について解説する予定ですが、
本やネットで調べれば足りるような内容にするつもりはありません。

少しだけご期待ください。


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