「お父さんの通帳、どこにあるか知ってる?」
母からそう聞かれたのは、日曜日の午後だった。
「え? 知らないけど……」
父が亡くなって、もう5年になる。
母は78歳。
今は実家で一人暮らしをしている。
「お父さん、銀行いくつ使ってたのかな?」
母は笑いながら言った。
「たぶん、いつもの銀行だけじゃない?」
そう答えたものの、私は急に不安になった。
父がどんな口座を持っていたのか。
生命保険は?
証券は?
借金はなかったのか?
考えてみると、私は何も知らなかった。
そして母自身についても、私はほとんど知らない。
「今度、一緒に確認してみようか」
そう言うと、
「そんなに大したものないわよ」
母は笑った。
そのときは、私もそう思っていた。
――翌週、母から一本の電話がかかってくるまでは。