事業承継問題は、日本の中小企業が抱える大きな問題のひとつですが、
この20年間をみてみると、親族内承継から、親族外承継へシフトが進んだといえます。
ここで、M&Aと、従業員への承継について、考えてみたいと思います。
1.M&Aと従業員への承継
今後、不安が懸念される更なる少子高齢化を踏まえると、企業の事業を円滑に次世代にバトンタッチしていくためには、多様化する事業承継の形態に対応した施策の検討が必要と考えられ、政府は、さまざまな諸施策を検討、施行しています。
とくに、最近では、事業承継の手段としてM&Aは有効な手段の一つとして注目され、親族外承継で、M&Aが非常に増えているようなのですが、私自身ご支援させていただいている経験も踏まえて感想を述べると、納得がいく承継先が見つけることは、かなりハードルは高いことは否定できません。
また、M&Aがうまく成立したとしても、今までの会社の文化がそのまま引き継がれるとは限りません。買収した会社の経営の方法によって、いままでの企業文化が失われてしまう可能性も十分あります。
2.従業員へ承継の問題点と克服
ここで、是非、検討したい方法は、従業員へ承継という手法です。上記に挙げたように、従業員への承継には、大きな3つの問題があります。“個人の債務保証問題”、“買取資金問題”、“経営者としての資質の育成”です。この点から、従業員承継は難しいというパラダイムがあります。
パラダイム:承継先の問題(親族内承継、M&A)・・・従業員承継は無理というパラダイム
私は、これだけ大きな問題を解決するためには、大きなブレイクスルー、つまり、従来までのパラダイムから、大きなパラダイムの転換必要なのではないかと思います。では、中小企業の経営者に多くある現状のパラダイムとはどのようなものなのでしょうか。改めて整理したいと思います。
では、この従業員承継のデメリットである、“個人の債務保証問題”、“資金問題”、“経営者としての資質の育成”は、本当に、解決できない問題なのでしょうか。
まず、個人の債務保証問題についてですが、平成26年2月より、中小企業庁により策定された「経営者保証に関するガイドライン」が適用開始されました。
◆経営者保証に関するガイドライン
経営者の個人保証について、
(1)法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
(2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
(3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援します。
第三者保証人についても、上記(2),(3)については経営者本人と同様の取扱となります。
現経営者が外部の金融機関から資金を借りている場合、後継者が債務保証を引き継ぐことは、対金融機関サイドからしても、後継者の従業員からも非常にリスクであり、なかなか実現しない大きな問題でした。しかし、最近では、「経営者保証に関するガイドライン」が適用されたことにより、一部の金融機関も徐々にではありますが、個人の債務保証を求めないケースも出てきたことを耳にします。こちらに関しては、金融機関に対する説明と、粘り強い交渉が重要になってくるかと思いますが、より一層の金融機関の対応の変化が期待ができるところです。
次に、資金問題についてです。現在は、親族外の従業員へ株式を譲渡する場合、親族内での時価よりも安い、配当還元価額という金額で譲渡が可能です。しかし、従業員の議決権割合が増加すると、配当還元価額で譲渡することができません。それに対応するため、先ほど、述べた政府の施策に加えて、中小企業の事業承継円滑化の検討事項として、税制改正が検討され、親族以外の方への事業引き継ぎに利用しやすい制度の改正が期待されます。
平成27年の税制改正には、素案に挙がってませんが、今後期待できる内容です。
◆期待される税制改正(平成26年8月15日の日経新聞より加工)
政府は、現在、中小・零細企業が後継者を見つけやすくなるよう検討している。親族以外の承継先として、従業員が事業を引き継ぐことに配慮して、親族以外に対しても会社の株式を時価より安く譲れるような法改正する。株式を譲る際にかかる贈与税の優遇対象も広げる。
現在の経営承継円滑化法では、後継者が経営者の親族の場合のみ、ほかの親族が合意し裁判所が許可すれば、株式を時価より安く譲渡できる。
同法を改正し、この特例を親族でない従業員などの後継者も受けられるようにする。
経営者が株式を時価より安く譲渡する場合にかかる贈与税の優遇対象も広げる。
現在は創業者が2代目の経営者に引き継ぐ場合だけ優遇しているが、創業者の存命中に2代目が3代目に引き継ぐ場合も対象とする。
もちろん、従業員への承継については、実務面も含めると、様々な課題はあります。
しかし、実は、米国や英国では、この従業員への事業承継は、かなりポピュラーになりつつあり、今後の日本の事業承継問題に光をさすかもしれません。
そのためには、まずは、パラダイムシフトが必要なのではないでしょうか?