第九話
そのとき彼女が僕のマフラーをしっかりと掴んでくれていなかったら。
そして僕が咄嗟に彼女の赤いマフラーを掴んでいなかったら、僕は一体どうなっていただろう?
きっと、また、多くの誰かに代償を払わせていたに違いない。
死は平等だから。
そう。
バランスを崩した僕は、咄嗟に、目の前に飛び出てきた、赤い何かを掴んだ。
そのときはそれが何かわからなかったが、それは赤いマフラーだった。
そして彼女の方は(これは後から聞いた話だが。)、人ごみに押されて今にもバランスを崩しそうだった少年をよく見ると、それがクラスメイトだということに気付いた。(これは驚くべき事実だか、進級三日目にして、彼女はクラス全員の名前と顔を覚えていたのだ。)
心配になって声をかけようとしたが、そのとき、彼の体がふらりと大きく線路側に傾いた。
とっさに体を捕まえようと、彼女の伸ばした手が掴んだのが、僕のマフラーだった、というわけだ。
つまり僕は初対面のクラスメイトに(クラスメイトなのに初対面というのも妙な話だが)命を救われたのだ。
その光景は、旗から見ればきっと、滑稽なディズニー・アニメのように見えた違いない。
何しろそのときの僕等は、線路ギリギリのホームの端で、まるでダンスでも踊っているかのように互いに互いの首を絞め、体を支え合っていたのだから。
しかしそれもほんの少しの間のことだった。
彼女のマフラーは、僕に引っ張られると実にあっさりとほどけてしまい、すぐ下の線路に舞い降りた。
霧の中でただ一つの目印だった赤い何かが、手をかけた途端にひらりと飛んで行ってしまう。
あぁ…行ってしまう…
僕の赤い…
首が絞まったと同時に、僕の周りに取り巻いていた白い霧はさっと晴れた。
その直後、まさに取り計らったかのように、電車がホームに滑り込んできた。
本当に取り計らったかのように。
僕は正気を取り戻し、咳き込み、喘ぎながら顔を上げた。
そして僕が咄嗟に彼女の赤いマフラーを掴んでいなかったら、僕は一体どうなっていただろう?
きっと、また、多くの誰かに代償を払わせていたに違いない。
死は平等だから。
そう。
バランスを崩した僕は、咄嗟に、目の前に飛び出てきた、赤い何かを掴んだ。
そのときはそれが何かわからなかったが、それは赤いマフラーだった。
そして彼女の方は(これは後から聞いた話だが。)、人ごみに押されて今にもバランスを崩しそうだった少年をよく見ると、それがクラスメイトだということに気付いた。(これは驚くべき事実だか、進級三日目にして、彼女はクラス全員の名前と顔を覚えていたのだ。)
心配になって声をかけようとしたが、そのとき、彼の体がふらりと大きく線路側に傾いた。
とっさに体を捕まえようと、彼女の伸ばした手が掴んだのが、僕のマフラーだった、というわけだ。
つまり僕は初対面のクラスメイトに(クラスメイトなのに初対面というのも妙な話だが)命を救われたのだ。
その光景は、旗から見ればきっと、滑稽なディズニー・アニメのように見えた違いない。
何しろそのときの僕等は、線路ギリギリのホームの端で、まるでダンスでも踊っているかのように互いに互いの首を絞め、体を支え合っていたのだから。
しかしそれもほんの少しの間のことだった。
彼女のマフラーは、僕に引っ張られると実にあっさりとほどけてしまい、すぐ下の線路に舞い降りた。
霧の中でただ一つの目印だった赤い何かが、手をかけた途端にひらりと飛んで行ってしまう。
あぁ…行ってしまう…
僕の赤い…
首が絞まったと同時に、僕の周りに取り巻いていた白い霧はさっと晴れた。
その直後、まさに取り計らったかのように、電車がホームに滑り込んできた。
本当に取り計らったかのように。
僕は正気を取り戻し、咳き込み、喘ぎながら顔を上げた。