死後の私
生まれ変わったら・・・
また、一緒に・・・
ね?
最後の言葉
幸せだったから
伝えることが出来た
一緒に居たかった
悔いがあるから
零れ落ちた
その想いだけが在ったのを
覚えている
手つかずの私の部屋も
時が経つにつれて
少しずつ
少しずつ
空いていく
あの時より若い写真が
静かに手を合わせる
あなたの上に飾られて
少し大きくなった
あの子が
無邪気に行ってきますと
声高らかに叫んでいる
死後の私には
何もすることがない
歯痒さと静寂だけが
この身体を包み
淋しさが
あなたに背に寄り添う理由になっている
長い間
そんな時の感覚なんてあるかしら
生きている人を
眺めていると
ちょっとずつ老いていくのが解る
私なんて鏡の前に立っても
映らないから
今、どうなっているかなんて
判らない
あなたとあの子
二人だけではしゃぐ時も
喧嘩する時も
悲しむ時も
直ぐ傍で
頷いたり、止めようとしたり
慰めようとしたりもした
けれど
幾らアプローチしても
気が付いてくれることはない
虚しさだけが
ふわり、ふわりと降り、積もる
晴れ姿を眺めた
おめでとうと
叫んでみた
どうしてだろう
身体なんてないのに
胸のあたりが少し苦しいと思えた
あなたが倒れた
もう部屋の中で独りきりのあなた
蝉の音も
雨の音も
樹々の騒めきも
風の悪戯も
静かに座る
あなたを覆い隠してしまうほどに
活気がなくなった
我が家
それを楽しんでいた弱弱しくなった姿が
ふらりと
そして
ぱたりと
横になった
気が付いてくれた
顔なじみのお隣さんが
青ざめ、バタバタと動いた
私には
私には、そんな時でさえ
何もできず
必死に呼びかけるだけ・・・
あぁ、文字を書けたらなぁ・・・
あぁ、あの背中を撫でれたならなぁ・・・
あぁ、声を出すことが出来たらなぁ・・・
あぁ、一目でも私を見せることが出来たならなぁ・・・
あぁ、あの頃の笑顔のまま、抱きしめてあげられたならなぁ・・・
強くなったあの子の顔が
少しだけ暗い影を落としていた
私が聞いたことを
おそらく
知ってしまったのだ
気が付けば
成仏なんてせずに
ずっと張り付いてしまった
だからこそ、残念な気持ちに溢れ
なぜか少しだけ待ち遠しい想いがある
あなたも
何となく気が付いているのでしょう
笑っているときもどこか諦めた様な
寂しいような
低音が混じり始めていたから・・・
ありがとう・・・
最後の言葉をあの子は
投げかけた
見届けた
最後まで
心残りは在った
私ではなく、あなたがそう
小さな光の粒
ぽっ、と胸の中から飛び出して
私の周りをクルクル回りだす
そしてあの子の周りも・・・
互いの姿は、きっと見えてはいない
互いの声も、きっと聞こえてはいない
互いの想いも、きっと届いてはいない
おそらく、私も
あの小さな光の粒のように見えているだろうから
ただ、あなたは
何となく私だと気が付いて
僕だよって寄り添ってきたんだ
出逢った頃のあなたままで
無邪気な笑顔を浮かべて
あぁ、良かったと想えた
あぁ、良かったと感じた
不安はもう、無い
あなたの輝きにじゃれついて
部屋中を駆け回った
気が付けば
あの子を部屋に残して
見失うぐらい高く
高く、高く
高く、高く
舞い上がった
雲の上は
飛行機から眺めるよりずっと綺麗で
ずっと静かだった
あなたがすっと
消えた・・・
私もそれを追いかけた
それが本能なのか何となくなのかは
わからないのだけれども
死後の私が
ようやく旅立つことが出来たのだと
納得した瞬間だった・・・
生まれ変わったら・・・
また、一緒に・・・
ね?
うん、また一緒に・・・
僕は誰?
あなたは、誰?
このうるさい声は、僕?
この女の人は、誰?
怖い・・・
でも、温かくて優しくて・・・
気持ちいいなぁ・・・
ありがとう・・・
by銀翼のキケロ