崩解
硝子の向こうに君がいた
うすっぺらな透明な石の向こうに
君が、居た・・・
だけど
そこに声はなく
異様に蒸し暑い夜の空気と
どこからか入ってきた
蛾が一匹
くるくると静かに、不規則に踊る
光景しかなかった
僕は、泣く
僕は、無く
僕は、啼く
僕は、亡く・・・
僕は、ひらすらに
無力な両手を憎み
そして
無力な自分を呪った
空に笑う
愛しきものの
忘れた声を想い
空降りの夏は
いつもより
やけに冷たく過ぎ去った
それでも未だ道に彷徨う陽炎は
ゆらゆらと、ゆらゆらと
形振(なりふ)り構わず寄りかかり
迷惑なまでに
在りもしないものを擦り込んでくる
だが
その影を眺めても
何も感じることなく
飄々と、薄ら笑みを浮かべながら
一人
木陰の
錆びついたブランコで宙を舞う
夕焼けがこの身を燃やそうと
闇夜が、この身を飲み込もうと
きぃ・・・、きぃ
きぃ・・・、きぃ
きぃ・・・、きぃ
きぃ・・・、きぃ
と、上下に揺れる鉄の歯ぎしりが
通りすがる他者の骨の
そのまた奥に突き刺さった
空のブランコ
悲しみを乗せて
左右に揺れている
誰もいない
空き部屋の一角に残された
小さく、そして伏せられた
写真立て
次に、陽の光を浴びる日は
おそらく
来ないだろう
なぜならば
その傍らに揺れる
大きな影が
未来永劫
その空間を、閉ざしてしまうからだ
by死神キケロ