素直(そのまま)
なにがそこまでさせるのか
ふと
見慣れた景色の中で
笑う君を見ながら
思った
真っ白な一枚の紙と睨めっこ
古き良き友への、手紙だという
一文字でも書いたのだろうか
覗き込むと
マッサラ
何一つ書けていなかった
助言でもくれてやろうとすれば
眉間にしわを寄せて
断ってくる
頑固というか
そこがまた可愛いというか
どこか・・・
抜けているというか
ひとつの溜息が
一直線に部屋の中を駆け抜け
壁にぶつかって
落ちていた
鼻歌交じりに
玄関の戸を開けた
仁王立ちの君に似た子が
不敵な笑みを浮かべて
待ち構えていた
掲げた手に垂れ下がる
私だという絵
果たしてそれが
私であるかは置いておこう
まだ、手の内に収まるその頭に
そっと置いて
ありがとうと撫でてやった
口喧嘩
背中合わせの朝
何食わぬ顔で走り回る一匹を除いては
ぎこちない空気
それを理解してかいないかは解らない
すこし大人びてきた娘に
諭されて
一つのテーブルを囲んだ
久々に
まじまじと眺めてみれば
互いの顔の皺に
多いだの少ないだので
妙に笑い始め
いつの間にか
喧嘩のことなど忘れていた
その横に
ほっと、胸をなで下ろした
姿が、在った
晩秋のような
すこし静かな部屋の中
抱き合うこともなく
話し合うこともなく
妙に、傍らに居続ける時間を
楽しむようになった
そろそろかしらと
らしくない弱音を
いつからか何度も聞くようになった
ただただ、頷くだけ
ただただ、聞いているだけ
の私も多くなった
想いに更けるとでもいうのだろうか
あまりにも駆け足な時間に
よたよたとふらつき始めた頃から
覚悟はしていたさ
ただ、いざ目の前に立たれると
恐ろしく
どこか残念で
何となくだが、終わりというものに
感謝すら沸き起こるものだと
知った
独り
一人
自由はなく
思うばかりで表にも出せず
見つめるのは
動かぬ天井と
覗き込む
老いた娘の顔ばかり
あぁ、まだかなぁ
あぁ、まだかなぁ
あれ程までに
私を引きずっていた時間が
妙に優しくて
なんだかこそばゆい
そのせいだろうか
ありがとう
そればかりは
しっかりと、まだ言えた
ふと
見慣れた景色の中で
笑う君を見ながら
考えた
なぜなら、今の君も
昔の君も
老いた君も
愛し続けていた君も
知っていたから
全部、全部
知っていたから
その中で笑い
手を振っている姿に
立ち尽くしたまま
考えていた
だって、君にまたこうして
会えたことが
素直に嬉しいから
嬉しすぎて、もう・・・
泣くしかないじゃないか・・・
君に掛ける言葉だよ?
選ぶために
考えてしまうじゃないか・・・
あぁ・・・
あぁ・・・
ただいま、なのかな?
【えぇ、そうね・・・。おかえりなさい・・・。なのかしら、ね?ふふっ】
by銀翼のキケロ