鎖
野を歩く
枯草の上に
白く、まだらに積もった
雪を踏みつけ
ただ、歩く
己に纏う絶望と
目的も解らず
ふらり、ふらりと
進み続けた
慣れ合うわけでもない
一羽の老けた烏(カラス)
くしゃり、くしゃりと
音を立てて
付いてきた
パンの切れ端を与えても
口するわけでもない
抱きかかえようとすれば離れ
手を差し伸べれば
その手の上に、トンと顔を差し出した
甘えるわけでもなく
乗ってくるわけでもない
あの雲の上にある空のような瞳を携え
灰色の私を映した
おまえは、何を思い
何を見ているのか
黒く黒く染まったお前より
その瞳に影を落とす私の方が黒いからか
笑っているのか
憐れんでいるのか
あぁ、酷く冷たい嘴(クチバシ)だ
瞬きは、しているが
何となく近い事だけは理解できた
お前は良いなぁ
この世界からもうすぐ旅立てる
お前は、善いなぁ
この苦しみからもうすぐ放たれる
なぁ、どんな気分なんだ?
かぁと一声
羽をブルつかせ
空へ飛び立った
目の前には一枚の大きな羽と
耳の奥にまで響く風の音
深く突いた溜息は白く不規則に広がって
どこかへ消えた
あれと同じように・・・
立ち止まって
ふと、辺りを見渡せば
真っ白で
まっしろで
美しく、虚しく、何もない
冷たい現実に覆われていた
命で溢れた世界は、夢であると
色彩に溢れた世界は、幻であると
細く、細く言われたような気がした
助けを求めても
既に遅く
掠れた声さえも
静寂の奥へ走り去り
戻ってくることはなかった
孤独なモノ
孤高のもの
孤立した物
憎悪と嫉妬
憤怒と悲哀
復讐と呪怨
欲望と虚空
五体に刻まれた鎖は重く
引き摺るたびに
顔は歪み
呻き声が、昼夜問わず流れ出る
あぁ、なんど殺せばいいのだろう
自分というものが立ち上がるたびに
人前で殺し続ける日々に
疲れた・・・
あぁ、何度潰せばいいのだろう
自分というものが生まれる度に
人前で潰し続ける年月に
失望した・・・
いつの間にか
私は、私の首を絞め
どこかに楽に死ねる場所はないか
彷徨い始めていた
恐怖も覚悟も必要ない
家族とか友人とかの繋がりもない
たった一人で
静かに、消えることのできる方法はないか
探していた
アルバムを燃やし
写真を引き裂き
後世に、私というもの全てが引き継がれないように
考えられることを試みた
だが、それも無駄事
繋がりは消えず、太くなるばかり
臍の緒という鎖にからめとられたあの時から
繋がりはすでに始まっていたのだ
気が付いたころには
取り返しがつかない道の先
もう、希望などという愚かな思想は抱かない
いや、抱けない
この冷たく白い現実というものを踏みつけて
ひたすらに
ひたすらに
進むほか、残された選択肢は
ないのだ・・・
by銀翼のキケロ