消えゆく法(さだめ)
誰かに縋り付かれたかのような
いつかの秋の夕暮れ時
何者かの死に泣いているのだろうか
虫たちが、次々と声を上げる
静かに、囁くように
母の子守歌
父の怒号
子供らの笑い声
人々の流れが
消えた世界は
とても静かで
とても緩やかだった
ススキをならす風の奏者
語り合う何者か
背中には
月が昇り始めた頃だろうか
辺りが蒼白に染められていく
暗闇と共に
けれども、心ばかりが
虚ろな焔となって
ゆらゆらと浮かぶ
冷ややかに笑う影を踏みつけて
進むわけでもなく
戻るわけでもなく
その辺を、ぷらぷらと
当てもなく歩いているだけなんだ
ぽっかりと空いた誰かの席を
覗き込みながら
己の法を
己の消えゆく法を
見据え始めた
未練という糸が
絡みつく前に
その姿を、理想とした
足取りは重く
声もまた、強がりばかりで
何もなくなっている
命というものが
本当に蝋燭の様に思えるころには
白い布地に横たわっているころだろう
あぁ。忘れられるのか
私は、消えるのか
訪れる度に鼻を掠めるお香の香り
木箱の姿
額縁
考えもしなかった場所に
己が居る
それが死に様なんだと誰かが言った
なんとも寂しいものだ
なんとも、無様なものだ
なんとも言い難いものだ
なんとも、離れがたいものだ
ただただ、どうしてと
お天道様に問いかける日々
日に日に目を合わせなくなる家族
遠くの好物を見つめる日々
日に日に、低くなる視線
夢と現実の狭間すら解らなくなる日々
日に日に、軽くなる身体
あぁ、とても、とても
とても、とてもとても
死ぬことが勿体無い
まだまだ、生き続けたい
歩けるじゃないか
こんなにも・・・
なのに
もう、すぐそこに
それがある・・・
別れ
死というものが
手を伸ばしているのだ・・・
やり残したことはないか
いつしかそれが
白紙の一本線のように
ひたすら真っ直ぐに己を動かしていた
友を巡り
記憶を巡り
自分自身を巡る
喉を通らぬそれも
無理矢理押し込んでは
吐き戻した
味はなく
押しつぶされるような苦痛と
涙が
目の前の床へ広がり
悔しさが
ぶつくさと独り言となって
家中を歩き回った
それも、床に入れば
家族の泣き声に変わり
ただただ、申し訳なく思うことと
ただただ、ありがとうという感謝の想いで
枕を濡らした
床に伏してから幾時か
幻を見た
老いたはずの母が
昔そのままの姿で私を見降ろしている
私は、いつの間にか自由になっていた身体を
精一杯伸ばし
母へ抱き付いた
何が食べたいと聞かれたので
やはり・・・
好物の名を口にした
母には笑われたが
そのころの母にしては
妙に優しく感じ
妙に悲しげに、見えた
ついさっきまで
背を、さすっていてくれていたのに・・・
by銀翼のキケロ
終活というものが在るらしいですが、遠くのようで身近なモノなんですね・・・