また、始まる旅の詩
誰かがいた荒野に
振り向いて一礼した
じりじりと頬を焼く夕焼けは
思い出を心の奥底へと
焼き付けてくれているようだった
草を分けても
細い木々を払いのけても
道というものはない
どれもすべて
未知という世界
私一人、進む世界
あの場所から、どれだけ離れたことだろう
忘れ得ぬ、他人というものの温もりが
握り締めた
手の中で、心地よい笑い声を上げている
戻ろうか
戻ろうよ
狼の遠吠えが
この耳を掠める度に
暗闇に溶け込んだ影が、囁きかける
山々の頂に
凍てつく風と
偉大なる太陽を背負う
既に革靴の端端は擦り切れ
血を糊として張り付いているに過ぎない
毛皮のマントも
厚手の手袋も
衣服でさえ
所々に穴が開き
ギスギスと風の槍を突き通してしまうのだ
あぁ、気が遠くなる
あぁ、気が軽くなる
眼の中をうろつく瞳は
眠りたいと
私に告げている
けれどもこの足と
心は、進むぞ、と
意気揚々と前を見ている
右に左に、腕をばたつかせ
何もないところを
泳いでいた
飛び込む景色は
虹の色
聞きなれぬ虫の声
鳥の唄
茂みの中でさえ奇奇怪怪
駆け往く獣の力強さ
滲む汗より蒸し暑い
白き砂の道を歩く
潮風と海のざわめきを携えて
この蒼き果てには
何がある
歩むべき道は途絶えた
渡る術も導もなく
ひたすらに押し返す砂の上にいる
あぁ、この空へ行けたなら
限りというものを
吹き飛ばしてしまえるものを・・・
いつの間にか座り込み
炎を前に項垂れている
見上げたそこに億万の宝石を鏤めた様な空が在ろうとも
今の私に、感動というものはなく
ただ、ただ気休めの図柄となるだけだ
どうしたものか
どうしたらよいか
唯一人
ただ、独り
これでいこう
いや、だめだ
二言だけの鬩ぎ合いの時を過ごす
波は、高くとも低くとも
私のこころを大いに揺さぶる
飛び散る飛沫に
希望を濡らし
地平線の向こうへ
不安を映す
宛てもなく漂っているのかすら
判らない
今はただ
また、始まる旅の詩を
この見慣れぬ木の寄せ集めに
刻み
息絶えて
朽ちようと
どこかに辿り着き
伝われば良しとしよう
そう、思う
by幻想師キケロw