翡翠のこころ
鳴いてばかりの子猫を
何も言わず
顔も変えず
持ち上げて
見つめているあなたを
遠くから眺めていた
膝の上でじゃれ付く子猫を
眠そうな瞳で眺め
片方の手であやす
その姿を遠くから
見つめていた
雨の日に
ずぶぬれになった子猫を
上着を脱いで
それでガシガシと拭いている
けど・・・
やっぱり
静かで
無表情
壊れたロボットのように
仕組まれた動きにしか見えない
晴れの日に
子猫がずっと遠くを見据え
ちょこんと座っていた
私もそれに習い
ずっと見守ってみた
待てども
待てども
一日
二日
三日
過ぎ行く時間を数えても
その人は現れない
たまに通り過ぎる人が
手を差し伸べても
脇へ逃げてしまう
ただ、その人だけを
待っているのだと
理解した
ふらふらになった子猫
虚ろな瞳に
なにを見たのだろうか
突然
私にも聞こえるような
大声を上げた
あぁ、きっと呼んでいるんだ
あの人を
それを鬱陶しく思う人間に
缶を投げられても
石を投げられても
蹴り上げられても
止めようとしない
やっぱり・・・
道の隅っこで
横たわる子猫
静かに息をするくらいで
私が近づいても
もう、逃げては行かない
持ち上げて
抱きかかえ
あの人のように
撫でてみた
そっと片腕を伸ばし
私の胸にその手を乗せて
起き上がる
必死に掌を舐めて
擦れた声を聞かせてくれる
それが
なんだか
酷く懐かしい心地を覚えて
抱きかかえたまま
家へ帰った
月日がどれ位経ったころだろう
もうすっかり大人になった子猫は
私の部屋の窓辺で
寝ている
でも、時々
淋しそうに鳴いて
寝返るの・・・
胸にそっと手を乗せてやると
甘噛みして甘えるの・・・
多分、夢の中で
あの人にあっているんだ
そう思えた
むっくりと起き上がる
翡翠、おいで?
私は、呼んだ
軽やかに駆けてくる姿
でもなんだか
あの人のことが羨ましいと考えてしまう
この心
翡翠を連れて
お散歩
初めて出会った場所を
ゆっくりと回る
駆けては戻ってを繰り返す
楽しそうな背中
でも、なんだか違うような気がして
ならない
だって、時々
探しているような素振りを見せるから
ふと、遠くを眺めた
人の波の中で
時間が止まった人が一人だけ俯いていた
車椅子に乗って
不可思議な杖を持って
なにやら探しているようだった
大丈夫ですか?
何かお探しですか?
そう声を掛けた私に
翡翠色の目を持った子猫を知りませんかー
そう言った
両の足が無かった
目も包帯で巻いているものの
陥没しているのが良くわかった
けれども
あの人であることは間違いない
なぜなら
見たことも無いくらいの勢いで
その人の胸の中に飛び込んで行く
翡翠の姿があったから
あ~あ、妬けちゃうなぁ・・・
でも
その子ですよと
応えてあげた
あの時とはうって変わって
穏やかな笑顔を
見せた・・・
【元気だったのですね
名前はなんと言うのですか】
【翡翠っていいます。】
【そう・・・。】
【あの・・・、いっぱいいっぱい可愛がってください。きっとその子も会いたかったはずですから。】
【いえ、もう十分です。】
【え?】
【この子が、私の心配をしてくれていたんです。だから、もうアナタしか見ないでしょう。】
【それってどういう・・・】
翡翠を抱き上げて
私へ差し出した
思ったより腕が細く見えた
ありがとうと言って
背中を向けた
翡翠を下ろしたが
座って眺めるばかりで
追いかけることは
無かった・・・
私には、彼の言葉だけが
耳の奥に撒きついて
離れなかった
だから、翡翠と同じく
姿が見えなくなるまで
じっと
ずっと
見つめていた
by幻想師キケロw
最初のころの詩は、こんな感じのものがおおかったのです。今とはまったく違いますね【笑】