帰らない黒猫 | 梟霊のブログ

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帰らない黒猫
(′・ω・)第五話、不機嫌な猫(そのさん)
 
 
 
 
 夢、そんなもの久しく見たことはない。それは、生前の話であって、現代の私には、関係の無いことであった。しかし、今の私は、どうやら夢の中にいるらしい。ついさっきまで、弥勒の足元にいたはずなのだが、気がつけば、懐かしいレンガでできた道上に、硬いパンの欠片を銜えて、やけに軽い体を揺さぶり駆けていた。にゃあ、にゃあ、と口ごもりながら、喉で鳴き、大きな扉の前まで来ると立ち止まり、その扉に前足をおっかけて立ち上がる。カリカリと爪を立てた。
「あら?なんの音かしら?」
妙に聞き覚えのある女性の声がした。
「どうせ、スムールだろ。アイツは利口な猫だ。体も身軽で、閉じ込めたと思っても、いつの間にか抜け出してどこへでも出かけてしまうからな。」
こんどは、やけに太く落ち着いた声、これも知っているものだ。
「あら、そうなんですか?」
「そうだよ?しらなかったのか?御前さん。」
「あらあらまぁまぁ、なんですか?そんな目で私を見ないでくださいまし。」
「二人ともどうでもいいから、戸をあけようよ。日も暮れるしスムちゃん凍えちゃうよ?」
「あぁ、そうですねぇ~。開けましょ開けましょ。」
さらに、幼い少女の声がしたと思えば、からりからりと鐘の音を響かせて、扉が開いた。すこし、ぼろの入った淡い紅色のエプロンと、ひらひらとした服装。顔に見合わぬ小さな眼鏡、ところどころに深く刻まれた傷のような皺を頬の両脇いっぱいに寄せて笑う老婆が、優しいランプの光を背に立っていた。
「あらあらぁ、この子ったらまたパンの欠片を銜えてますよ?」
「なに?またか・・・、猫の癖に魚や鼠を銜えるわけでもなく、鳥を捕まえてくるわけでもなく、毎度毎度、パンばかり。店の右端のパンの並びを見てくるよ。おそらく、それがそいつの口にぴったり合うはずだ。」
老婆は、右の手を左の頬につけて、声を細めて驚いたような顔をした。男のほうはこの老婆の影になり、声だけしか聞こえてこないが、呆れた顔をしていることだけは解る。
「爺ちゃんも、婆ちゃんも、許してあげて?多分、私のためにやってたこと。まだ抜けきってないんだと思うから。」
そしてもう一人、細く澄んだ、優しい声の少女、ランプの光に浮かび上がる影から、手やらで形作って説明しているらしい。そっと抱きかかえられ、家の中へと入っていく、私は、進んでいく先と老婆の顔を交互に見つめ、なにかを思い出そうと右の前足を、老婆の腕に押し付けたり戻したりを繰り返した。けれども、だめよ?と二度頭を撫でられると、心地がよく、それ自体、どうでもよくなってしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
by幻想師キケロw