帰らない黒猫
(′・ω・)第四話、おちつかない猫(そのに)
彼の部屋の中から、妹が叱られる様を、眺める。だが、座ってみていることができない。何かこう、出逢った頃を思い出して、落ち着かないのだ。狭い空間を、右へ左へ、耳を畳んで、机の脚に頬を擦り付けて見たり、髭を引っ込めたり突き出したりして、匂いをかぐ素振りをしてみたり、毛繕いをやってみたりと動き回った。ぴんと天へつきたてた尾を、時折ふらつかせもした。人間は、他人の叱られる様をみると面白がるというが、私は何せ猫のような猫。人に近くても所詮猫だ。どうにも、楽しむことはできない。
「そこ!動くな!!」
「!」
あまりにもそわそわしていると、こっちが怒られてしまった。ふむ、どうしたものかな。
「おにぃ・・・、誰かいるの?」
「黙れマリ!今は御前を怒っているんだ!」
「はい・・・。」
仕方なく、ベットの上に上り、くしゃくしゃの布団の体の良いところに体を埋め、パタリ、パタリと自分の尾を動かし、それを眺めた。はっきり言う。つまらない。しかしあれだ、あの子は彼を怒らせることは私より上手い。嫌ならやめればよいものをな。どうして、こうも蜂の巣を突くようなことばかりするのだろう。私は、目を細めて、歪な布団の山々の隙間から彼女を見つめた。なんとも、まぁ、落ち込んでいるようにも、喜んでいるようにも見える顔だこと。それから、一時間ほど説教が続いた。
彼女は、説教が終ると、足が痺れたのか、立てないようだ。
「御前の部屋の戸は開けといていてやる。あとは、自力で戻れ!」
「そんなぁ・・・」
「・・・・・・。鬼」
「あ゛ぁ゛ん?」
「おにぃ?やっぱり部屋に何か居るの?」
「んなわけねーだろ!」
「う~・・・。」
そして彼は、力の限り戸を閉めた。振り向くと、あの形相のまま私に近づいてきた。そして、首根っこを掴み、宙へぶら下げた。私の鼻の先に、目を合わせたくない顔がある。
「何のまねだ?黒・・・」
「あ、いや、まぁ・・・なんというか。布団を・・・ゴニョゴニョ」
「お前は、そこまでして俺に怒られたいのか?」
「そんなことは無い!!そんなことは無いぞ!?」
「だったら、さっきのはいったいどういう用件で発した言葉だ?」
「そ、そのままの意味だが・・・。」
「ほう・・・・?御前、明日の朝、俺の自転車で引き摺られたいと見えるな・・・」
「!!!。それは簡便。たのむ、それだけは!!」
「ですよねー。だったら、今度から同情なんてものはするなよ?」
「はい・・・。」
このとき、同情は身の破滅になると学習した。彼女には悪いが、目を瞑ることしかできない。許せ。おそらく、匍匐前進で進んでいる彼女の姿を思い描きながら心の中で合掌をした。が、扉の向こうでは。
「おにぃ、に、なんど怒られたって止めるもんですか!フヒヒ。あぁ、おにぃ、の部屋の匂い、おにぃのあの顔・・・最高なんだもの。」
「・・・・。あぁ~弥勒」
「なんだ。」
「その、さっきは悪かった。」
「あ?、急に改まってどうした。」
「いや、なんでもない。」
同情すら必要ないことも、このとき理解したのだった。
by幻想師キケロw
つづく