帰らない黒猫
(′・ω・)第一話、通りすがりの猫「その二」
朝日が東から昇る頃、瑠璃色の空が虹を抱きかかえあくびをしている。私は、ぐっと体を伸ばし、顔を幾度か洗う。ただ、この体になってからその意味はあるのかと問われれば、おそらく無いと答えるだろう。
「ふむ、変わらぬ日常だ。」
新聞とやらを撒き散らす人力ではない二輪車が、私の楽しみを切り裂いて通り過ぎる。すずめらもチュんチュんとせわしなく世間話を始め、まったくこの美しい風景を味わう空気が台無しだと、がっくりと肩を落とす。
三日位前から、私は誰もいない民家の軒下で過ごしている。といっても寝ているわけではない。なんというか、そこは猫だからとしかいえないのだ。疲れも、痛みも、ましてや寒さ暑さなど、当に忘れているさ、この体はな。いや、なんとなく心で感じる程度ぐらいは残してはいるかな。それでも、常に暇をもてあましていることには変わりない。 此処最近は、つい先日出くわした妙なちんちくりんの後を追いかけて、観察するのが日課となっている。どうにも引っかかるのだ。あの反応、あの言葉。今まで、嫌な顔をされたことは何度か在るのだが、さすがに私の声に反応したのはあの小僧以外記憶にない。あぁっと、どうやら学校と言う学問を学ぶ場所に行くようだな。よくもまぁ、あんなところで座ってがやがやと書物を読みあさるものだと溜め息を混ぜつつ、ある程度の距離を保って、とことこと今日もついていく。
校門というところは、気をつけなければならない。小僧の友人が、抱きついた拍子に振り向きかねん。今更ながらあの過度な接触は好きになれん。どうしてこうも、人間と言うものはべたべたと体を触りたがるのだろうな。猫の主観で申し訳ないのだが、どうも触るという行為は押さえつけているようにしか感じることができんのだ。かゆいところを掻いてくれるとか、毛繕いを手伝ってくれるとか必要なことならまだしも、可愛いとかなんとかで必要以上に触ってくるあれだけはどうにもならん。いやいや、こんなことを愚だ愚だと言う為にここにいるのではなかった。とにかく、校門と言うのはあの小僧が私を見つけてしまうかもしれない場所であり、また、あの小僧以外でも見える輩がいるかもしれんのだ。用心に越したことはなかろう。
私は、校門が見える少し離れた民家の屋根に、顔だけをひょっこりと現し人気がなくなるまでじっと眺めていた。人気がなくなれば、するすると道端に下りてきて、のんびりと学校の中へと入っていく。幾ら戸締りがしっかりしていようとも、今の私には、無駄な行為だ。
今の学校と言うものは、つるつるとやけに光る廊下に階段、窓枠が銀色の材倶でできている。壁は分厚い石の板でできており、柱も同じような感じだ。昔は、木で造られていたものだが、どうやら現代のものは【こんくりぃと】と呼ばれる変幻自在の石とよく曲がる鉄を組み合わせて出来上がる。なんとも不思議なものだ。いや別に透通るのに抵抗があるとか、多少邪魔になるとかではない。それよりも、すっぽりと隠れることができるものだから都合がいい。昔は、しっぽだけとか、お尻が出いていたりとか中途半端にしかならず、見えるものによく悲鳴を上げられもした。あれは、思い出すたびに腹がよじれるが、考えてみれば格好が悪いな。そうそう、あの小僧はといえば、まじめ教諭の話を聞いているわけでもなく、女の子と仲良く話すわけでもなく、かといって明るくも暗くもなく特徴と呼べるところがほとんどない。話しかけてくる人間に対しては必要最低限で済ませ、何か良からぬことを企む人間に対してはきっぱりと断るか、のらりくらりかわして手をふってさっさと帰ってしまう。うむ、捉えようにも捉え切れないのが現状であろうか。ふらふらと空を飛ぶあの虫よりも、たちが悪い。あぁ、そうか。そういえばどこから観察しているか言っていなかったな。実はな、小僧の後ろにちょうど良い縦長の入れ物がありその上からまたまた顔だけを出して見ているのだ。また、小僧が教室と呼ばれる部屋の、窓際最後尾と言う位置にも感謝すべきであろう。まさか、こんな近くで見られているとは、誰も考えもしないだろう。我ながら完璧である。
授業には、数種類ある。どれもこれも、私にはちんぷんかんぷんではあるが、いくつかは内容を見てみれば、なんとなく理解はできる。特に現代文と呼ばれる授業に、私が世話になったものが出てきたときには驚きもしたし、朗読がこころを高揚させてくれた。つまり、楽しいものであった。逆に、数学えぃとびぃなどと言うものや英語とか言うものは頭が熱くなるばかりでさっぱり解らん。今と言うものは、寺子屋と呼ばれるものがあったときよりもずっと進んでいるのだろうと、認めざるを得ない。
「ところでさ、ろく!最近元気なくね?」
「あぁ~・・・・、なんでもねーよ。」(まさか、掃除ロッカーの上に猫の生首があるなんていえるわけねーよ。しかも動いてるし。)
「そうか?・・・・、そうならいいが。でさ、今週のサンdayみたか?」
「んあ?なんかあったっけ?」
「都市伝説だよ。都市伝説!」
「あぁ~あれか、黒猫が横切れば必ず不幸が起きるとかの・・・。」
「そうそうそれ!」
「いや、それ都市伝説以前から在っただろう」
「ふふふ、古いな。ろく!今の都市伝説の黒猫は一味違うぞ!!」
「なにがだよ。サム・・・」
「それがだな、不幸になるどころか。その黒猫を見れば幸運に成れるとか成れないとか!?」
「はぁ?ナンだよそれ。」
「いやぁ、よく俺も知らんのだけど・・・。これみてみぃ?」
「?」
「事故にあって意識不明の人がいたんだと。んで、もう助からないとかで絶望的な状況だったらしいんだけど。ここほら、その人のだんなさんの話。黒猫が部屋の隅に寝ていた。それを起こそうとしたら、ふっと消えてそれと同時に、意識のなかった奥さんが目覚めたという連絡が入った。驚いてもう一度その場所を振り向くと、黒猫が壁をすり抜けていくところだった。だってよ!!」
「くっ・・・・だらねぇ。」
「あ゛?おまえそーゆーこという!そーゆーこという!じゃもうこれ見せてやんねぇー!」
「解ったよ。じゃあ、俺も、これから御前の秘密隠す必要ねーから、御前のねーちゃんに言いつける。」
「ちょ!?あーもう。なしなしなし。今の話なしにして?おねがぁーい。ろく様」
「気持ち悪い。離れろ。わかったから、離れろ」(うっとおしい)
今の若者と言うものは、じゃれあいと呼ばれる仕草まで変わり果てているようだ。小僧の友人は、あれか俗に言う変態とう者なのだろうか。しかしまぁ、なんだ。この話、思い当たる節が私にはある。たまたま、通りすがった家の部屋で試しに横になっていた。すると今まで気がつかなかったはずの男が突然、杖みたいなものをもって大声を上げたものだから驚いて飛び跳ねてしまった。その直後に、【でんわ】というへんてこな箱が鳴り出して、その隙にそっと出て行ったのだ。まさか、見られていたとは。反省しなければな。しかしなんだ、昼休みと言うものはにぎやかで仕方がない。しょうがない、屋上にでも行って収まるのを待つとするか。私は、すっと、頭を引っ込めて屋上へと上った。
「・・・・・・。あれ?」
「どうした?ろく。」
「いや、なんでもない」(いなくなったな・・・。)
幻想師キケロw
つづく