幻想の旅人10
どこか懐かしい
どこか懐かしい声に
僕は、泣いていた
静かに微笑みながら・・・
きっと僕がいた時間なんだ
そう心の中で納得した
とても悲しい思い出がこみ上げてくるような
とても哀しい出来事があったようの気が
どんと突き上げてきて
僕は泣いている
拭いても拭いても
溢れてくるこの感情は何?
この思いは何?
いったい誰のために泣いているのか・・・
解らない
景色が霞んで
体に力が入らない
膝を折り
声を天空に走らせ
泣いていた
ほのかに黄昏色に染まり始めた
若い小麦の穂がカサカサと音を立てていた
この大地で
僕は、一体どんな暮らしを営み
どんな人を好きになって
そして別れたのだろう
この心にぽっかりと空いた虚しさで
僕の涙は永遠に満たされることはなかった・・・
さぁ、行こう
さぁ、行こう
僕は、僕ではない誰かの瞳の中にいた
この人は
映し出された女性が大好きなんだ
赤茶けた道を
楽しそうに歩いている
羨ましい
現代の僕は、ここまで輝かしい思い出はない
この瞳の持ち主は
幸せ者なのだろう・・・
こんな素敵な女性と巡り会って
僕は、見とれていた
この一枚向こうの幸せそうな笑顔を
不意に景色が変わる
灰色の鎧
銀色の剣
あれ?この人は・・・
大きな城を目前に
剣を構える
同じような甲冑が何人
いや、大勢見える
そうか・・・
この人は戦争に行くんだ
その守りたいという思いは
僕にまで、熱く熱く伝わってきた
戦場を見た
それは、平和ボケした僕の頭には
入りきらないバイト数だった
飛び交う矢の中を駆け抜けて
すれ違いぶつかり合う
刃を全身で感じ
全霊で受け止める
怖い
怖かったけど
目が離せない
この人の生きるという意思
生き残るという信念
絶対再会するんだという想い
その全てが僕の中へ流れ込んでくる
言葉にはできない
いや出来るはずもない
この人は
あの人を愛していたんだ
たったそれだけで
ここまで出来たんだ
理屈でどうこう説明できないよ
熱い一粒の涙が
僕の頬を伝って
どこかの泉に落ちた
時間が引き伸ばされる
情勢は思わしくない
勝てないだろう
そんな
予感がすり抜けたとき
僕の視界は紅い地面に向けられていた
そんな
そんな・・・
信じられなかった
あんなにも強い想いが
こうも簡単に壊れてしまう
その真実が・・・
なんども
なんども
瞳の中から
この人へ問いかけた
聞こえていないと判っていても・・・
でも・・・
この人は
最後まであの人のことを
想っていた
最後の最後の・・・瞬間まで
僕は、真っ暗になるその時まで
瞳に写った
あの人の笑顔の幻を
気抜けした人形のように
呆然と眺めていた
悔しさと切なさで
僕は、泣いた
もう声には出なかった
暗闇でアクリル版のような板を
何度も
なんども
ナンドモ・・・
叩いて叩いて
まるでこの人が
自分だったかのように
泣いた・・・
誰かが僕の肩に手を乗せた
細い
それは細く軽い、白い手を・・・
そして
言ったんだ・・・
ありがとうって
満たされた声で
ハッとして振り返る
そこは、最初の丘
小麦畑を臨む風の丘
誰もいなかった・・・
虚しさが、また押し寄せた
でも、なぜだろう
その一言を聞きたかった
そんな気がした
懐かしい・・・
どこか、懐かしい
どこか懐かしい声に
僕は、泣いていた
静かに微笑みながら・・・
光に満ちた
君の笑顔を思い浮かべて
目覚めると
溢れてくるものがあった
とめどなく
流れてくるものがあった
でも
心がどこか幸せで
泣きながら笑った
それから・・・
昨日までの濁った心が
いつの間にか
透き通って潤っていた