『間違いだらけのビール選び』/清水義範 | こだわりのつっこみ

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 「お見合いのことだけどさ……」
 「はい」
 鈴香は神妙な声を出した。
 「親の事情とかもあるんだろうから、やったらどうかな」
 「うん」
 剛平は鈴香と顔を見合わせ、いたずらをそそのかすように言った。
 「それで、そのあとことわっちまえよ」
 鈴香は剛平の目を見つめ、嬉しそうにほほえんだ。
 「はい」
 それから二人ともしばらく無言で、しゃかしゃかと氷いちごを崩すことに専念した。
 陽が落ちるまでにはまだ少し時間があった。
(p224-225より)

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日本におけるパスティーシュ作家の代表的人物である、清水義範さんの短編集間違いだらけのビール選び読んでみました。

パスティーシュとは、パロディのようなもので、文体などを何かに似せて(例えば取扱説明書などを極端にパ ロディ化するなど)つくる小説の分野です。

清水義範さんの作品は、以前からファンで、エッセイなどを含めいくつか読んだことがあったのですが、今回は私にとっては意外なものでした。

というのも、パスティーシュの風味がないものがほとんどで、日常のひとコマやちょっとした恐怖など、どちらかといえば阿刀田高作品を読んでいるかのようだったのです。




今回は1篇ごとに簡単な感想を書くにとどめますが、以下は
ネタバレを含むので、嫌な方は見ないでください。
 









間違いだらけのビール選び (講談社文庫)/清水 義範
¥600
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~1回目 2010.12.28~

1.間違いだらけのビール選び・・・3点
 (ビールの商品名の羅列が「あぁ清水さんっぽいな」と思った、唯一パスティーシュを感じさせないでもない作品。これはビールに限らず食品や嗜好品全般に言えるようなブラックなユーモアを感じました。)

2.猫の額・・・5点
 (猫の額ほどの庭を整え、老後の庭いじりを趣味にしようとした男が、猫の糞に悩まされる話。発狂しそうな展開なのに、逆に自然界に対しての畏敬にもっていくとは。恩蔵さん、優しすぎですぜ。)

3.雨・・・6点
 (なんだか恐いラスト。やけに映像が目に浮かびます。崩れてきた土砂から出てきた死体は誰なんだろう・・・)

4.家内安全・・・4点
 (年末多忙を極めるデパート勤めで家族の正月の予定をさして頭に入れてなかった男の正月。家族がいなければ、何もすることがない正月を迎えてしまった彼は、正月三が日をどうすごしたのだろうか。)

5.空白の頃・・・8点
 (確かに、小学生の頃なんて俺も何していたか記憶にない。学校へ毎日通って楽しかった記憶があるんだけど、その時に何を考え、何を思っていたのかなんて断片程度。それを大人目線(+先生目線)で綴っています。子供の頃の感覚がふと甦ってなかなか面白かったです。)

6.二人の女・・・7点
 (分かる~と思ってしまった作品。子供にとっては母親(嫁)、祖母(姑)どちらも好きなんですけどねぇ。しかし、子供ながらに私も母親を応援していました。それがゆえに祖母から敬遠する気持ちをもったことも確かです。ただし、この作品では主人公の女子高生が、むしろ自分は祖母寄りの人間なんだと気づく部分が新鮮です。)

7.ブラッド・ゾーン・・・7点
(発見されれば殺されると思ったウイルスが、脳を侵食して必死に人間を動かそうとする・・・なんだか恐いですね。危ういところで発症は免れますが、その緊迫感がすごく伝わります。)

8.私の中の別人・・・5点
 (虚構と現実。人は誰でも、いくつもの顔を持っていますが、それが度を越してしまうと恐ろしいことに・・・。p192の『見つけたよ』には、美奈子と同じように私も息が止まってしまいました。)

9.青空の季節・・・9点
 (初々しくて、懐かしい物語。裕次郎が流行っていた頃でしょうから、まだギリギリ貞操観念があっていいんでないでしょうか。冒頭で引用したのは、この短編です。色んなコンプレックスも、自分が大好きな女性と思いが通じるってだけで吹っ飛びますよね。それにしても、鈴香の「私のこと嫌いになっちゃったの」っていう言い方、素敵ですね。)

10.島の一夜・・・8点
 (展開はベッタベタ。しかし、終わり方がいい。最後まで描かないところがミソでしょうかね。千秋を通して、研究の楽しさや、当たり前に思っていた無人島の研究所生活も何か変化があるように思えるのです。いやー、それにしても過ちを犯さないところが真面目な先生。)

11.本番いきま~す・・・5点
 (多分そうなんだろうな、っていう感想を持ちますが、まさにその通りなのでしょう。まるで機械的に進行されていくテレビ。自分の時間感覚と実際の時間のズレ。当たり前の光景ですが、それにしてもよくこれを小説にしたなガーン)





総合評価:★★☆
読みやすさ:★★★★
キャラ:★★☆
読み返したい度: