『きみはポラリス』/三浦しをん | こだわりのつっこみ

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 このひと、ホントのあほだったんだ。私はしみじみと思った。いまどき、プラント・ハンターだなんて聞いたこともない職業を自称し、冒険だのロマンだのと大まじめに語る男がいたなんて、信じられない。そしてそんな男の差し出す婚姻届に、私は名前を書いちゃっただなんて。恥ずかしくてだれにも言えやしない。
 でも、まあいいか。私は捨松と手をつないだまま、くすくすと笑った。捨松と森を歩くのも悪くない。捨松はいつか、植物を夢中になって追うあまり、今日みたいな崖から人知れず転落死してしまうかもしれないし、私は明日にも、車にはねられて死ぬかもしれない。この先どうなるかなんてだれにもわからないんだから、捨松と行けるところまでは一緒に、道もない森のなかを進んでみるのもいいだろう。
(p193より)


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今回は、三浦しをんさんの短編集、きみはポラリスの紹介です。
どの短編にも恋愛が軸ですが、その愛が同性愛であったり、純愛であったり、偏愛であったりと、様々なものなので、飽きずに読めることができます。
基本的に短編は好きなのですが、こういったブログに掲載するにあたって1篇1篇紹介したほうがいいのか、まとめて紹介したらいいのかどうしようかとも思ったのですが、各短編の簡単な感想を述べたいと思います。


ではでは、以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。








 
きみはポラリス/三浦 しをん
¥1,680









 




~1回目 2009.12.24~

では最初に、各短編の自分なりの採点(えらそうに汗)を書いておくことにします。
基本的にどの章も、文章が巧く、すんなり入っていけるのですが、共感できるかとか、起承転結に納得がいったかといった点で、ごくごく個人的な評定です。
10点満点で、寸評も加えてみました。


1.永遠に完成しない二通の手紙・・・2点
  (うーん、なんとなく、同性愛って苦手なんです。えっいきなり!?って感じもあって。まあ、その背景は最後の短編で語られるのですが)

2.裏切らないこと・・・7点
  (旦那さんの突き抜けた愛情が面白かったです。最終的に奥さんも幸せそうで。前園さん夫婦(?)も情景が浮かぶくらい素敵な関係だと思いました。)

3.私たちがしたこと・・・6点
  (俊介の痛いほどの愛情が伝わってきます。罪を2人のものとする朋代の愛情も感じます。しかし、話が痛切なので、悲恋とでも言いましょうか。)

4.夜にあふれるもの・・・3点
  (こちらも同性愛だと思うんですが、なんだかよく分からなかった。)

5.骨片・・・8点
  (決して結ばれることのない愛の形。おそらく舞台は現代よりちょっと昔だと思うのですが、この時代、こういう決心をして愛を貫くことを決めて一人で生きていくというのは大変だっただろうな)

6.ペーパークラフト・・・2点
  (なんか最初の時点で不倫しそうと思ったのですが、それよりなにより、里子が色んな面で自分を正当化しすぎているという感じがして、むしろ反発を覚えました。やられたからやりかえし、それを許すってのもなんか陰湿だと。)

7.森を歩く・・・10点
  (記事の冒頭で紹介したのはこの短編の一節です。なんていうか、捨松とうはねの絶妙な信頼関係というか愛情がすごくほんわか伝わってきます。

8.優雅な生活・・・8点
  (これも二人の愛情がいい感じに綴られていると思います。俊明のロハス生活が無理していないようで実は無理していた、でもそれはさよりに対する精一杯のお返しということが伝わり、温かい気持ちになります)

9.春太の毎日・・・7点
  (異色の、ペット目線(おそらく犬か?)から描かれた飼い主さんへの愛情。江国香織さんの『デューク』に通ずるような愛を感じました。この短編で好きなところはペットである春太が飼い主の麻子の彼氏である米倉を嫉妬深く、しかし面白おかしく観察していること。春太の「米倉」という言い方、凄く好きです)

10.冬の一等星・・・7点
  (幻想的な小編。本来憎まれるはずの文蔵が、なんとも不思議な感じで描かれています。確かに私も車の中で寝るって好きです(主人公のように好んでそこに寝たりはしませんが。))

11.永遠につづく手紙の最初の一文・・・
4点
  (一番最初の「永遠に完成しない二通の手紙」の2人が再登場し、舞台は、岡田が寺島を好きと自覚した高校時代を描いています。話としては面白いんだろうけど…って感じでした。)


この作品全てに共通することですが、文章が非常に簡潔で、それでいて時にうならせる格言をもってきたりするので、「次はどんな話なのだろう?」と気になってどんどん読み進めてしまいます。

特に、感銘を受けたのは、「夜にあふれるもの」の

「狂気と正常の境は常に多数決によってしか引くことができない」(p100)

という文句と、「骨片」の

「私の心の中に嵐が丘はある。荒涼として人の住みにくい大地。冬はすべてが枯れ果て雪に閉ざされるが、短い夏の間には花が咲き乱れ、まるで天国のようになる場所。そこには人間のすべてがある。私はその小さな土地に踏みとどまって、あらゆる移ろいを見つめ続ける覚悟をつけた。…(中略)…私は誇らしく晴れやかな心持ちで、顔を上げていた。私は心を偽らぬ。変化の乏しい居心地の悪い毎日だとしても、私は私のやり方でこの恋情を全うせねばならぬ。」(p138)

という一節です。

様々な恋愛模様と、格言。
短編にしては勿体無いほど、それぞれが完成されている気がしました。
もちろん、上記の評定は、個人的な好き嫌いであり、文章自体や題材自体は興味引かれる人ももちろんいることは分かっています。
それだけに、読む人それぞれに自分の好きな一編があるといってもいいくらい、幅広い恋愛短編集だと思いましたニコニコ



 
総合評価:★★★★
読みやすさ:★★★★
キャラ:★★★★
読み返したい度:★★☆