それでも世界が続くなら 最低の昨日はきっと死なない | ライブハウスの最後尾より

ライブハウスの最後尾より

邦楽ロックをライブハウスの最後尾から見つめていきます。個人的な創作物の発表も行っていきます。

どうも( ^_^)/


セブンイレブンにCDが届いていたのに気づかなかった者です。


しかし、届いたというメールもないしタワレコの配送履歴もまったく更新されていないのに気付けというほうが無理な話です。


既にあるものを待っていた間抜けな一週間もきっと死なない。


それでも世界が続くなら
  最低の昨日はきっと死なない







それでも世界が続くならのインディーズ復帰第一作は、いろいろとこちらの常識を外してくる逸品です。


まず、それでも世界が続くなら(レーベルなし)という裏面の表記。

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「レーベルってなくてもCD出せるんだ」

「お前だってレーベル所属してないけどCD作ってるだろうが」

「流通はしてないけどな」

「ついでに田んぼのカラス避けかフリスビーにでもした方が有意義に使えるくらいの完成度だけどな」


という無駄な脳内問答が繰り広げられましたが、まったくの裸一貫からリスタートするのだという決意が滲みます。


さらに、廃カラオケスタジオの一室でほぼ一発録りされたという原初的な振る舞いも面白い。


あと、めっちゃ安い(・ω・)。


この間買った某インディーズバンドのCDが七曲入り2000円(←邦楽CDとしては至極妥当な金額)だということを思えば、九曲入り1000円+税の本作は価格破壊的ともいっていいです。


これは半分冗談として、発売後各店舗で品切れが続出したという昨今の邦楽ロック界ではなかなかお目にかかれない現象が起こっていることからも、とんでもない作品の予感がします。


一曲ずつ聴いていきましょう。



01.昨日が終わるまで


人間は長生きです。身体の成長がおおよそ止まってから先の寿命が非常に長い。


それが何を意味するのかは分かりませんし、明確な意味などないのでしょうが、仮に自分がこの世界に不適応な人間だと知ってしまったとしても、その“長い寿命”は続いていきます。


「自分には生きていく才能が無い」と分かったあとも、人生が残酷なほど続いてしまうことは、とても辛いことです。


これを読むあなたが、ここまでの分かりにくい文章に何かしらの引っ掛かりを感じたのなら、この“昨日が終わるまで”の歌詞は痛みを伴うほど響くでしょう。


ピンと来なかったなら、この暗闇の中でポツンと灯った消えそうな電燈みたいな曲の良さを噛み締めて欲しいから、やっぱり聴いて欲しいです。



02.浴槽


リバーブを効かせたギターに浮かび上がる足音のようなベースとドラムの淡々としたストロークが、絶望の焼け野原に呆然と佇んだような歌声を引き立たせます。


それでも、歌詞は泥を吐くように前に進んでいく人の姿を描く。後半の歌詞はただ一つの言葉をひたすらに繰り返すだけです。
この、ギリギリな心境から振り絞られたかのようなワンワードに込めた想いを全て受け止めたいと思いました。





浴槽って、人一人が何とか収まるくらいの狭さのイメージがあります。水の張っていない浴槽の中で胎児のように丸まっている誰か、という映像を幻視しました。



03.冷蔵保存


冷たい質感のギターリフから徐々に重たいドラムとベースの音が乗っかっていくイントロに続く歌詞は抽象に比喩を重ねたような言葉で紡がれています。


重苦しく、“冷たくなる”ことを望む誰かの歌。冷たくなりたいのは心のことだろうか、身体のことだろうか、それとも両方だろうか。


ちなみに俺の知り合いに、バイト先にある大きな冷蔵庫にあやまって閉じ込められて凍死しかかった人がいます。気を付けましょう。


04.ひとりぼっち



緩やかな空気と、秋の虫の音が聴こえる中、タイトル通り一人弾き語る篠さんは、やっぱり言葉の人だなと思います。


自分だけの言葉を持っているから、曲を次々に生み出せるし、そのすべてがほかにはない魅力に溢れている。


こういうソングライターはバンドに余計な音がいらない。そして自然と言葉が浮き彫りになるギターの弾き語りがとても似合う。


音楽による対話を望むミュージシャンが歌った、限りなく純粋な心情が爆発した言葉を聴けます。



05.傾斜


Lyu:Lyuとの対バンライブで一曲目にやっていた曲なので印象に残っていました。


改めてじっくり聴いてみると、歌詞はとても短いし簡素な言葉で紡がれていました。


しかし、曲は分厚いです。


ほとんどシンセサイザーのような役割を果たしているギターにそう感じるのか、歌を覆い隠さんとするばかりの激しく歪んだギターになのか、一つ一つの哀しく苦しい言葉に込められた想いの強さを歌声が増幅させているのか、重く重く感じられる楽曲です。



06.落下


リズム隊がグルーブするイントロですが、ノリよく踊れる感じではないのがそれでも世界が続くならの妙技。生存本能と希死念慮に良いように踊らされていることを自嘲気味に描く歌詞を聴けば何も考えずに踊ってなどいられない。


いや、むしろ敢えてノリノリで踊るべきなのかもしれません。頭痛の中、涙も出せず、ただじっと座りこんで耐えるのみの昨日を乗り越えたささやかなプレゼントとして、どう考えても考えすぎな自分に優しくしてやる今日が必要ではないかと思うのです。




07.少女と放火


場面描写が上手いバンドだと思います。


教科書を燃やしたことなんかないけど、そうしてしまいたい気持ちは分かるし、火災になる前に消火して部屋を水浸しにした光景も、容易に頭の中で像を結びます。


痛い、とも苦しい、とも歌われていませんがその二つの言葉が浮かび上がってくる歌詞です。傷つき過ぎて、今日を使い捨てながらでないと生きていけない、もしくは生きていけなかった人に向けた歌だと思っています。


08.最後の日


このバンドのアッパーな曲は、どの曲も掛け値なしにカッコいいです。


篠さんの根底に流れるパンクの精神が野放図なロックンロールを始めるからなのか、孤独なソングライターのセンスが絶望を打ち破ろうともがくシャウトを張り上げるからなのかは分かりませんが、カッコいいです。


最後を振り切れた爽快さで歌い切ってくれます。これで、最後の日に聴きたい曲がまた増えてしまいました。個人的余命一日前に聴く最後の一曲候補です。


09.失踪未遂


人との約束があるとちゃんとできますが、自分だけの予定だとどうしても適当にしてしまいます。


今日も個人的なスタジオ練習の時間に遅刻しました。損したり困るのは自分だけだし、電話一本でキャンセルもできるし、眠いし。でも、とりあえず自転車に乗って電車にも乗って、目的地へ向かう。


これは要するに、なんとなく前に進むのが億劫になっているのだと思います。本当のところは、もう何もしたくない。諦めてしまいたいんだと。


そんな考えた事そのままをこの曲でいわれてしまったので、“失踪未遂”の紹介をする導入にしたというわけです。


ついふとした出来心で乗り過ごした電車の中から始まる歌。誰かや自分から押し付けられた役割からは逃れられても自分自身からは逃れられない業のようなものを感じました。







空っぽの今日が同じような明日へと、それでも続いてしまうことは、死にたいと思いながら生き抜いてしまった最低の昨日から地続きの場所にある現実です。


そうしているのは間違いなく、生きることにうんざりしているはずの自分自身で、その居心地の悪い矛盾した気持ちを抱えながら、死なない過去を抱えながら生きているすべての人にこのアルバムの曲たちが届けばいいと思っています。