百万人が聴く存在になる可能性~SPYAIR『MILLION』 | ライブハウスの最後尾より

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邦楽ロックをライブハウスの最後尾から見つめていきます。個人的な創作物の発表も行っていきます。

どうも( ^_^)/

読み違えていた者です

何を?と言えば、これです


SPYAIR『MILLION』






※インタビュー記事
決意と覚悟の3rdアルバム『MILLION』



このアルバムのタームでSPYAIRは『サクラミツツキ ツアー』という全国ツアーをやっていて、そのZeppNAGOYA公演でVo.IKEさんが

「今年はデカイことはやらず、CDのリリースとライブを着実にやっていきます」

といったようなことを言っていて、俺はこれを『来年への布石』と読みました

盤石という名の飛躍へ~SPYAIR TOUR2013 サクラミツツキinZepp Nogoya というブログでも、そういったことを書いてドヤ顔で〆ていました


が、大きな読み違い、SPYAIRがやりたかったのは『飛躍』じゃなくて『回帰』だった


では、ちょっと長くなりますが、そういう感想に至った背景について説明します




SPYAIRがメジャーデビューしたのは2010年、これ以前の名古屋での活動も知っていますが、やはりメジャーになったことで、バンドに対するイメージも少し変わりました

優れたポップ感覚を持つラウドロックというものから、純粋なポップミュージックを歌い鳴らすロックバンドへ、それがメジャーファーストの『Liar』を聴いた時の感想




何しろ所属事務所が研音でCDを出すレーベルがSMEJ(Sony Music Associated Records)

最大手芸能事務所でマネジメントされながら、最大手レコード会社から音源を発表できるという、メジャーデビューを目指すミュージシャンなら誰もが羨望の眼差しを向ける最高の環境です

無論そういった人たちの目に留まったのはSPYAIRの音楽的魅力によるもので、彼らはその大船に存分に乗れば良かった

結果として出すシングルのほとんどに豪華なタイアップがつき、セールス的にも大きな成功を収め、路上で鍛えた熱いライブの規模も一年ごとに大きくなって行きました



この順風満帆なアーティストストーリーに、このバンドは上手く乗っている……ように、見えた

俺は順調にトップアーティストへと上り詰める彼らに素直に「すごい、すごい!」と拍手を送り続けていたし、彼らもそういった音楽的+商業的成功を喜んでいる……と、思っていました




それが間違い、では無いのかも知れないけれど、間違いだったかもしれないと思わされたのが、今回のアルバムの曲たちを聴いたとき

そして改めてシングル曲を聴いたときに、確かにポップなんだけど、そこから漏れだすような“ロックを鳴らしたい衝動”を感じた時、俺はSPYAIRが『戻ってくる』感覚を感じました




敢えて他バンドの名前を出してしまいますが、こと批評的な部分で、SPYAIRはUVERworldと被って見えます

ポップミュージックとして、ロックバンドとして確かな存在感を放ちながら、反面、硬派なロック誌にはほとんど載らない状況が続き、それ故ロック音楽としての評論があまりなされないということだけを切り取れば、二つのバンドは似ています


批評されることが音楽の目的ではないけれど、そういう『あるコミュニティから、ほんの少し無視されている』もしくは『ビジネスに魂を売り渡したフワフワしたJpop』にみられてしまう状況がバンドを苦しめていたのではないかとも感じる

その反動、じゃないけどそういった『SPYAIRを聴かない人たち』に対してのカウンターとして、このアルバムの曲たちがあると思ったし、それが今のSPYAIRのモードで、それはひたすら音楽的な研鑽のみで全国規模のアーティストに昇りつめたバンドの『回帰』だと

それを目指した「地に足をつけて活動する」宣言だったんだなと思いました


蛇足ですが、UVERworldは7thアルバムに収録された『REVERSI』に於いて『全てをひっくり返す』と高らかに宣言し、その後に今まで“無視されて”きたロキノンジャパンの巻頭表紙を勝ち取りました



さて、一曲ずつ聴いていきましょうか


01.OVERLOAD

サクラミツツキ ツアーでは一曲目に演奏されていたライブ切り込み隊長、切迫したサイレンの音から始まるアルバムのリード曲

自然と体が揺れるテンポで聴かせる硬質なサウンドメイキングも、ライブでのシンガロングを意識しただろう歌詞も、IKEさんの咆哮のような歌声によく合っています

今後のライブでも『ジャパニケーション』と並んで重要な楽曲になりそうな予感


02.Turning Point

『サクラミツツキ』のカップリング曲

ここからシングルスケールの曲が続きます、バランス的には歪な感じですが、それでも『WENDY』が入っていなかったり、特に硬派なロックチューンが選ばれていたり、かなり吟味された結果なんだなと思います

そしてこの曲は、ヘビーでラウドなギターリフが鳴る得意技、SPYAIR自体がフリーライブでのし上がってきただけあって、肌触りがするほどの生々しさが伝わってくる


03.現状ディストラクション

タイアップで我を出すタイプと、その作品に寄り添った曲を作るタイプがいます

SPYAIRはその辺が曖昧だった

『サムライハート(Some Like It Hot!!)』や『My World』を聴くと結構寄り添っているように聞こえるけど『Liar』や『Last Moment』なんかは自分たちのやりたいようにやっているようにも見える、何しろシングルのほとんどがタイアップ曲ですし、作品に沿ってみたり沿ってみなかったりはもともと自由です

その点、今回のアルバムでの曲は全部我が出てます

『現状ディストラクション』も、この後の『サクラミツツキ』も、『銀魂』の主題歌っていうことは一旦忘れて聴いた方がいい

それがこのアルバムでSPYAIRが表現したいこと『もがき、戦い、すり減って消耗してもまだ聴いてほしいという欲望を捨てられない』という“現状”を歌いきった曲

Cメロの自罰的で自虐的な歌詞をどう聴くかで曲全体の印象が大きく変わります



04.サクラミツツキ

『桜、満つ月』『桜見つ、月』

解釈は人それぞれでしょうが、このアルバムを『回帰』と思った俺としては、この曲の“君と僕”はリスナーとバンドという図式で聴いていたい

≪欠けた月≫を探し当てたあと続く物語を見てみたい、ツアーでは「約束の曲」と語っていましたが、ここでまた再び壮大な“約束”としてリブートした感があります


05.Winding Road

インディーズ時代から温めていたというミディアムバラード、歌詞も曲構成もできた当時とほとんど変えていないということは歌詞を見ると分かります

≪お前≫とか≪君≫とか三人称が定まっていないし、『Rockin' the World』時のような素直で力技なメロディの持って行き方も、もうすぐ30になるバンドには出せない青さが出ていて良い



06.Are You Champion? Yeah!! I'm Champion!!

最初に聴いたときにMOMIKENさんが壊れてしまったのかと不安になった『バカ曲』

「こういうギャルっているよね」という軽薄なコーラスに乗せて、何の内容もない歌詞が続き、何も残らず終わって行きました 笑

現役のチアガールだというコーラスの女性が曲中「なぁにこれ?(笑)」と言っているのですが、こっちのセリフです

でもこういうロックンロールをしっかりやれるのってこのバンドの強みですね、純粋に“踊れる”という


07.STAND UP

同じくロックンロールナンバー、こちらは硬派にギターとベースのLowが効きまくったグルーヴィな一曲

リフで押していく曲はそう何曲もやってると同じようなものばかりになっていく危うさがあるんですが、SPYAIRはあまりマンネリを恐れていない感じですね、それは常にアップデート出来ている自信があるからでしょう、まだまだいろんな隠し技が出てきそう


08.Supersonic

硬質なバンドアンサンブルが、ミニマルなエレクトロサウンドとともに盛り上がっていく精密なアッパーチューン

『MILLION』で顕著なのが歌詞が簡素であまりインテリジェンスを重視していないところ、MOMIKENさんの言葉は一つ大きな武器ですが、今回は敢えてそれに頼らないバンドの音で勝負するロックアルバムにしようという意気込みが見えます


09.雨上がりに咲く花

雲が切れて晴れ間が覗くような美しいイントロから始まるバラードロック、と呼んでみました、もうちょっと良い表現があるかな

ギターが粒で鳴っていて、ドラムはエレキっぽく、ベースはあまり主張せず淡々とリズムを刻んでいる、曲全体の色をつけるのはシンセのドリーミーなサウンド

そうだな、“ドラマチックロック”とでも書き直しておきましょうか


10.虹

絹のような細い雨が上がり、僅かに濡れた自分は気にならず見上げた空には見えるか見えないかの薄い虹、それを見つめていたら徐々に感情が高まっていって叫び出すように歌い出す


そんな風景を見たイントロ、始まった歌はどこか醒めていて、それでも無視できない情熱を自覚している

『虹』で歌われる世界観は『人とつながることの大切さと虚しさ』です、傷を舐め合って塞ぎ合って、そして傷つけ合って、自分の都合の良いように他人を解釈して離れて行く、会いたいと願っても会えず、叫びは届かず、でも≪君に聞いて欲しい≫歌がある

だから、サビ終わりのCメロの歌詞がとても響く、ここまで書かないと響かないこの歌のハイライトです


11.16 And Life

曰く「何度も聴いてもらうためにこの曲を最後に持ってきた」というアコースティックな曲

言葉がスラスラと流れて行く凪のような音に流されるまま、CDが終わる、しかし俺は気づかないうちにもう一回再生ボタンを押していました、思う壺ですな 笑




―――最後に、

ロックでありたい、とはいえ今の状況を否定する必要は全く無くて、音楽、特に大衆音楽/ポップミュージックとして売り出しているのならどんどん売れればいいし、その結果出てくる商業的なうねり、バンドが巨大になっていく流れも経験して、ロックの檻もポップの垣根も、できれば国境さえも取っ払って大きなムーブメントを起こせるバンドになって欲しいです



そのためにこのアルバムは必要不可欠です



百万人に聴かれる可能性のあるバンドへ、SPYAIRが一つ大きな飛躍と“回帰”を果たしたアルバム。今までSPYAIRを聴かなかった人ほどお勧めです。聴いてみてください



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