僕は、助手席に座り眠りについた彼女の横顔を見ながら、湾岸沿いの帰路を走っていた。
今日は12月23日。
お互いが仕事の都合上X'masを一緒に過ごせないという理由で、二日早いX'masデートを楽しんだ帰りだ。
日中はしゃぎ過ぎたのか、よほど疲れたのだろう。
隣に座る彼女は静かに寝息だけを立て、深い眠りの海に浸かっている。
僕は、そんな彼女を起こさない様に静かにカーステレオを付け、何となくラジオを聞く事にした。
「―――じゃあ続いてのコーナーは、X'masにちなんだお便りのコーナー!!」
まるで取って図ったかの様なタイミングだ。
ただ、タイミング的にはベスト。
僕は彼女を起こさない様に気遣い、多少ラジオの音量を下げた。
そうこうしている間に、投稿されたメールが読まれだした。
「あれは、私がまだ小学校の頃の話です。
その日は家族で外食に行き、とても楽しくて寝付けないながら、高ぶる気持ちを抑えベッドに入ったのを覚えています。」
何だか眠くなりそうな話だ。
僕は何の気無しに隣りの彼女を見る。
相変わらず起きる様子もなく、スヤスヤと寝息を立てている。
僕はそのままラジオを聴き続ける事にした。
「寝付けないといっても、やはり小学校の身体は疲れ果てていて、すぐに眠りについてしまいました。」
――何となく今の状況に似ているな。
と思い、フッと笑い、また隣りで眠る彼女を見た。
「あれは何時だったのでしょう。夜中である事は確かだと思います。
何かの物音と気配で私は目が覚めました。
私は眠気眼にその物音と気配の方を見ました。
するとそこには、かえり血を浴びたかの様な真っ赤なコートを着て、胸まで髭を生やした老人が立っていました。」
――オチは読めたな。
X'masのこの時期に、こういった多少のホラー感を付け足す小話。
正直言ってくだらないとも言える。
いっその事消してしまおうかとも思ったが、冒頭から聞いてしまっている以上、気になってしまう。
僕はそのまま聴き続ける事にした。
「その老人は、傍らからおもむろにある物を取り出しました。
中に何かが入っている、白い布の様な生地の袋です。」
やっぱりだ。
僕は軽く呆れ果てた。内容ももちろんそうだが、こんなオチが丸分かりのメールを読むDJ、スタッフ側にだ。
すでに次のコーナーを期待し、流しながらに聴き続ける事にした。
「さらに老人は、もう一個、さらにもう一個と、合計三個の袋を取り出しました。」
――おや?
予想していた展開と違うぞ。
思っている間にも、話は続けられる。
「怖い。怖い怖い。
私はそれしか考えられませんでした。
――私は見てしまったのです。
三つの袋、全てから血が滲み出て滴っているのを!」
僕はもう一度彼女に目を配った。
起きそうな気配はない。
彼女を気にしながらも、僕はカーラジオのボリュームを少しだけ上げた。
「老人は、それぞれの袋から中身を取り出し、私の目の前に置きました。
それぞれ形が違うながらも、同じもの。
そう。血の滴る肉の塊を!
私は気を失いかけました。
いえ、もしかしたら既に気を失っていたのかもしれません。
ですが、未だにハッキリと覚えています。
横になった私の目の前に置かれた、三つの肉の塊を。
一つは、血が滴る真っ赤な肉の塊。
一つは、所々から骨の飛び出した肉の塊。
一つは、比較的血の滴りが少ない淡いピンクの肉の塊。」
内心ドキドキしていた。
怖いとかじゃなく、予想外の展開に。
運転中とはいえ、意識はほぼカーラジオに取られていた。
「私がそれぞれの肉の塊を確認したのを知ってか知らずか、その老人は私にこう問い掛けてきました。
「どれがいい」
私は心臓が止まりそうになりました。
血だらけの肉の塊を目の前に置かれ、どれがいいも何もあったもんじゃありません。
「どれがいい!」
声を出す事も出来なくなっていた私は、急かす老人の声に怯える事しか出来ませんでした。
「どれがいい!!」
これを選んで何になるのか、私には全く理解出来ません。
ですが、早く選ばない限りこの老人は同じ事を言い続けるだろう。
そう感じた私は勇気を振り絞り、肉の塊のうち、一つを指差しました。
それを見た老人はニヤリと微笑み、一瞬で消えてしまいました。
一瞬の安堵が皮切りになったのか、私はそこで気を失ってしまいました。」
ハンドルを握る手が汗ばんでいるのが分かる。
掌を交互にジーパンのフトモモ部分で拭く。
意識はもはや完全にカーラジオに取られていた。
「次に気が付いた時は、もう朝になっていました。
ひどく寝汗をかいていました。
あれは全て現実だったのか。それとも夢だったのか。
とりあえず起きようと上体を起こそうとした時に、私の枕元にある物を見付けました。
それは、紛れもなく私があの老人の前で選んだ物と同じ。
淡いピンク色の肉の塊。
私は悲鳴を上げそうになりました。
が、それを止めました。
何故ならそれは、肉屋、果ては冷蔵庫の中で見た事のある肉、牛肉のロー―――――ブツッ」
実にくだらない。
僕は思わずにカーラジオを消した。
隣で寝ている彼女をもう一度だけ見る。
幸せそうな顔で眠り続けている。
僕は一人、家までの帰り道を運転する。
……X'mas……三択…ロース……。
今日はカツ丼でも買って帰ろうか。