May 30, 2024より,全訳を記します.前回はお休み,そして今回は3編です.

 

Red-Cell Rosette Formation in MalariaN Engl J Med 2024;390:1905

マラリアにおける赤血球のロゼット形成

 

症例は最近マラリアの治療を受けた57歳の女性で,2週間前からの倦怠感や食欲不振,2日前からの発熱を主訴に受診されました.受診の3ヶ月前に,彼女はピペラキンとジヒドロアルテミシニンによる3日熱マラリア原虫治療が完遂されており,通常の健康状態に戻っていました.体温は39℃で,血圧は98/50mmHgでした.身体検査では脾腫が目立ちました.血液検査ではヘモグロビン値は10.6g/dL(基準値:12.0~15.5)でした.May–Grünwald–Giemsa染色で作成された末梢血塗抹標本で,マラリアの配偶子細胞と成熟したマラリアの栄養体を含む赤血球が,ロゼット状に未感染赤血球を取り囲んでいました.赤血球のロゼット形成は3日熱マラリアや熱帯熱マラリアで見られることがあり,感染細胞が脾臓による隔離や貪食,おそらく抗マラリア薬への曝露から逃れるためのメカニズムと考えられています.3日熱マラリアの抗原検査は陽性で,赤血球中の寄生虫の量は1%未満でした.再発した3日熱マラリア感染によるマラリアの診断がなされました.別のマラリア薬による治療がなされました.3週間後のフォローアップで患者は再評価され,発熱はなく,症状もありませんでした.

 

Mallory–Weiss SyndromeN Engl J Med 2024;390:e49

マロリーワイス症候群

 

症例は79歳の女性で,3日前からの吐血や下血,心窩部痛を主訴に救急外来を受診されました.発症の約1年前,冷蔵されていない食べ物を食した後,非血性の嘔吐を発症しました.彼女は冠動脈疾患で,毎日アスピリンを服用していました.心拍数は102/分で,血圧は89/66mmHgでした.身体診察では蒼白で発汗が目立ちました.ヘモグロビン値は9.1g/dL(基準値:11~15)で,6ヶ月前のベースラインの12g/dLから低下していました.食道の破裂を評価するために胸部CTが行われ,食道胃接合部に粘膜の裂傷と軟部組織の腫脹のみ明らかになりました.上部消化管内視鏡検査では活動性出血を伴う約3箇所の縦方向の粘膜裂傷が認められました.マロリーワイス症候群の診断がなされました.この上部消化管出血症候群では,反復する嘔吐によって,最も一般的には食道胃接合部に表在性の粘膜裂傷が生じます.典型例では裂傷は1箇所のみですが,本症例のようにそれ以上生じることがあります.内視鏡的なクリッピングが行われました.プロトンポンプ阻害薬とフルオロキノロン系抗菌薬(細菌性胃腸炎の可能性があるため)による治療が行われました.6ヶ月後の経過観察で来られた際,患者は無症状で,バリウムによる嚥下検査の所見も正常でした.

 

Left Ventricular Thrombus after Anterior Myocardial InfarctionN Engl J Med 2024;390:e50

前壁心筋梗塞後の左室血栓

 

症例は糖尿病のある70歳の女性で,3日前からの心窩部痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診されました.心電図は正常洞調律で,前部に病的なQ波と陰性T波を伴っていました.高感度トロポニン検査によって,トロポニン値は686ng/L(基準値:11未満)であることが分かりました.患者は3次救急病院に移送され,その時点で症状は消失していました.冠動脈造影によって,左前下行枝(LAD)中部の完全閉塞が同定されました.左心室造影で,LAD領域に一致して壁運動異常に加えて心尖部の充満欠損が明らかになりました.経胸壁心エコーで左室駆出率は37%,壁在血栓が見られました.左室血栓を併発した貫壁性の前壁心筋梗塞の診断がなされました.左室血栓は再灌流療法の活用によって心筋梗塞の後遺症としては少なくなりましたが,本症例のように非典型的な症状や遅発性の経過として依然として危険なものです.遅発性で症状が消失していたほか,LAD領域で心筋は活性を失っていたことが確認されたため,血行再建術は行われませんでした.ガイドラインに沿った内科的治療と抗凝固療法が開始され,定期的な外来フォローが行われました.