June 16, 2022より,全訳を記します.今回はタイムリーな話題であるサル痘の症例が追加されており,3編になっています.あと,本当にNEJMは目の症例が大好きで,先月に引き続き,今回の1例目は目のClinical Pictureです.

 

IgG4-Related Ophthalmic DiseaseN Engl J Med 2022;386:2315

IgG4関連の眼科疾患

 

症例は67歳の男性で,1年前からの両目の腫れや右目の突出,2ヶ月前からのぼやけた視界を主訴に,眼科クリニックを受診されました.外眼運動は制限され,両目で視力が低下していました.舌下腺や顎下腺の腫脹はありませんでした.生化学検査で血清IgG4濃度が1440mg/dL(基準値は3~201),好酸球数が769個/μL(基準値は10~24)でした.眼窩のMRIでは,両側の涙腺や外直筋の腫脹が判明しました.視神経周囲の腫瘤性病変も見られました.右涙腺の生検標本から,IgG4陽性の形質細胞を伴うリンパ形質細胞の浸潤が明らかとなりました.花冠状の線維化や閉塞性静脈炎はありませんでした.IgG4関連の涙腺炎や眼窩筋炎,視神経疾患の診断がなされました.全身のCTで,他部位への進展は認めませんでした.プレドニゾン 30mg/日による治療が開始され,次第に減量していきました.3ヶ月後のフォローアップで,症状は和らいでいました.

 

Targeted Therapy in MelanomaN Engl J Med 2022;386:e66

悪性黒色腫における標的治療

 

症例は51歳の男性で,約36ヶ月前からの多発皮膚腫瘍の増大と6ヶ月前からの体重減少および腹痛を主訴に,皮膚科クリニックを受診されました.身体診察では悪液質でした.両腋窩と鼠径部,腹壁に大きな腫瘤がありました.全身のCTおよび頭部のMRIで,全身の転移が明らかになりました.胸壁の腫瘤からの生検によって,転移性の悪性黒色腫であることが分かりました.イピリムマブとニボルマブによる1サイクルの治療が開始されました.腫瘍における変異を調べるとBRAF V600Eの変異が判明し,治療はダブラフェニブ(BRAF阻害薬)とトラメチニブ(MEK阻害薬)に変更されました.標的治療の開始2週間以内に,腫瘤は小さくなり始めました.標的治療6ヶ月後には,全身CTで右腋窩の不応性の転移以外,全ての転移巣で縮小し,右腋窩の病変は外科的に切除されました.標的治療12ヶ月後,腫瘤はさらに小さくなりました.悪性黒色腫の患者では,免疫治療や標的治療によって急速な,そして臨床的に有意な腫瘍への反応が見られることがあります.初診から15ヶ月後,疾患の進行によって患者はホスピスに移りました.

 

Monkeypox Genital LesionsN Engl J Med 2022;386:online ahead of print

サル痘の性器病変

 

症例はコントロールされたHIV感染を有する31歳の男性で,1週間前からの無痛性の性器の発疹および2日前からの発熱や咽頭痛を主訴にクリニックを受診されました.3週間前に,コンドームを付けず新しい男性パートナーと性交渉をしていました.身体診察で,右鼠径部に斑状の発疹と有痛性のリンパ節腫脹,陰茎に2つの潰瘍性病変といくつかのくぼんだ膿疱が観察されました.梅毒やクラミジア,淋菌の検査は陰性でした.鼠径リンパ肉芽腫や軟性下疳の可能性を鑑みて,抗菌療法が開始されました.初診から5日後,患者は小水疱膿疱性病変が顔面や手に生じて再診されました.性器や手の病変から得られたスワブのPCR検査で,サル痘が陽性でした.サル痘の典型例では,有熱性の早期徴候に続いて発疹が出現し,身体の一部に見られた病変が同時に拡大していきます.最近の世界的なサル痘のアウトブレイクでは,早期徴候をしばしば伴わない,無痛性の肛門や性器の病変が,男性同士の性交渉を含む,感染者と密な接触があった者で観察されています.初診から2週間以内に,特別な治療介入なしに病変は和らぎました.他患で観察された,サル痘の性器病変例を追加して示します.