September 5, 2024より,全訳を記します.掲載はいつもよりも多い3編になっています.なお,1症例目の画像所見はQJMでもしばしば受理されていましたが,まさかNEJMでも受理されるとは驚きです.

 

Cannonball Pulmonary LesionsN Engl J Med 2024;391:844

キャノンボール肺病変

 

症例は軽度の間欠性喘息を有する54歳男性で,2ヶ月前からの息切れと咳嗽の悪化を主訴に救急外来を受診されました.バイタルサインは正常で,身体所見も異常を認めませんでした.胸部X線写真で,両肺に無数の円形の病変が認められました.胸部CTでは,両肺に大小さまざまな円形の固形状の結節が多数認められ,「キャノンボール」肺病変として知られる所見でした.キャノンボール肺病変は通常,癌の肺への血行性転移を示しています.このX線所見は,感染症や自己免疫疾患ではあまり見られません.血液検査では,LDHが5492 U/L(基準値:125〜220),β-hCGが607 μIU/mL(基準値:4.99以下)で,AFPは正常でした.陰嚢の超音波検査で,右睾丸に腫瘤が認められました.気管支内超音波検査を伴う気管支鏡検査と肺結節の経気管支針生検が行われました.病理組織学的検査の結果に基づき,非セミノーマ性の胚細胞腫瘍の一種である,転移性胚細胞癌と診断されました.プラチナ製剤ベースの化学療法とサルベージ化学療法による治療が行われました.患者は自家幹細胞移植の評価を受けています.

 

Electrocardiographic Findings in Diffuse Subendocardial IschemiaN Engl J Med 2024;391:e19

びまん性心内膜下虚血における心電図所見

 

症例は57歳男性で,1時間前からの胸痛を訴え,救急要請をされました.心電図では,洞性頻脈やV1・aVRのST上昇,広範なST低下,つまりびまん性心内膜下虚血を示す所見が認められました.このパターンは,急性のプラーク破裂や心筋の酸素需要の増加を合併した多枝冠動脈疾患や左冠動脈主幹部疾患によって生じえます.患者が病院に到着された時,心拍数は125/分,血圧は128/84 mmHg,room airでの酸素飽和度は99%でした.身体所見は正常でした.当初の血清トロポニンIは35 ng/L(基準値:0〜34)でした.緊急冠動脈造影の結果,左冠動脈近位部に90%以上の狭窄と左冠動脈分岐部に20%の狭窄が認められました.冠動脈内へのニトログリセリン投与によって,左冠動脈主幹の狭窄は固定化しており,冠攣縮に起因するものではないことが示されました.高リスクの非ST上昇型心筋梗塞と診断されました.冠動脈バイパス手術が行われました.退院時,患者の状態は安定しており,心室機能は正常でした.

 

Primary Cutaneous Herpes Simplex Virus Infection of the CheekN Engl J Med 2024;391:e20

頬の原発性単純ヘルペスウイルス感染症

 

症例は9歳の女児で,7日前から左頬に病変があり,4日前から発熱があったため皮膚科を受診されました.受診の4日前,膿痂疹疑いに対する治療が開始されていましたが,症状は軽快していませんでした.身体診察では左頬に直径3cmの紅斑を認め,その上に痂皮と1個の無傷の小水疱を伴っていました.取り囲むような小胞と同側の頸部リンパ節腫脹もありました.粘膜病変はありませんでした.診察に同伴された患者の父親は,10日前から下唇に痂皮があり,治癒した口唇ヘルペスと一致する症状を申告されました.患者の頬にある,覆うもののない小水疱のPCRで,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が陽性でした.皮膚の原発性HSV-1感染と診断されました.HSV-1は,ヘルペスの病変や感染した粘膜分泌物との直接的な接触によって伝播します.この症例では性的虐待の懸念はありませんでした.HSV-1感染が粘膜病変を伴わず皮膚病変として小児に発現した場合,膿痂疹の蜂蜜をまぶしたような外観と混同されることがあります.経口のアシクロビルによる治療が行われたところ,病変は瘢痕化することなく軽快しました.

英国内科学会の機関誌であるQJM:An International Journal of Medicine(2023 Impact Factor:7.3)の8月号のFront coverに,私の撮影した写真が掲載されることが決ったとのメールが届きました!昨年の9月号以来,3回目の吉報です.

 

タイトルは「Camellia japonica(椿)」です.

 

Brief caption:

Camellia japonica is a evergreen tree native to Japan.

It blooms from winter to spring, brightening the cold weather season in Japan.

This flower, called "Tsubaki" in Japanese, has been loved by Japanese people since ancient times.

The floriography of Camellia japonica is "humble virtue", which is in keeping with the fundamental spirit of the Japanese people.

 

(訳)Camellia japonica は日本原産の常緑樹です.冬から春にかけて花を咲かせ,日本の寒い季節を明るく彩ります.日本語では「ツバキ」と呼ばれるこの花は,古来より日本人に愛されてきました.花言葉は「謙虚な美徳」で,日本人の根源的な精神に通じるものがあります.

 

 

庭に咲いていた椿の写真です.

 

椿は日本原産で,花言葉も「謙虚な美徳」ということで,思わず英文化して投稿しました.

 

なお,今年の4月29日に投稿して音沙汰なく,てっきり落ちたものと思っていたので嬉しい誤算ですひらめき電球

 

これまで私のClinical Pictureが受理された雑誌について,最新のインパクトファクター(IF:Impact Factor)順に記します.昨年と比べて順位に変動はありませんが,軒並みIFは下がり,新型コロナウィルス感染症が落ち着いたことによってとうとう「バブル」が弾けてしまいましたあせる

 

 

*( )内は前回のIF

 

①European Heart Journal(EHJ):循環器系トップジャーナル,37.6(39.3)

 

②Quarterly Journal of Medicine(QJM):英国内科学会の機関誌,7.3(13.3)

 

③European Journal of Internal Medicine(EJIM):欧州内科学会の機関誌,5.9(8.0)

 

Cleveland Clinic Journal of Medicine(CCJM):クリーブランドクリニック(米国)の雑誌,3.4(6.1)

 

⑤Balkan Medical Journal(BMJ):トラキア大学(Trakya University)(トルコ)の雑誌,1.9(3.0)

 

⑥Internal Medicine(IM):日本内科学会の機関誌,1.0(1.2)

 

⑦National Medical Journal of India(NMJI):全インド医科大学(All India Institute of Medical Sciences)の雑誌,0.4(0.4)

 

 

ちなみに,掲載目標のNew England Journal of Medicine(NEJM)は96.2(158.5)ということで,100を下回りました.

 

あと,Lancetも同様に100を割り込みましたが,98.4(168.9)なので,辛うじてではありますが,3年連続でNEJMのIFを上回りました.