最近読んだ本 | 楕円球空間

最近読んだ本

「マフィア帝国 ハバナの夜」(T.J.イングリッシュ)

「検証 ナチスは<良いこと>もしたのか」(田野大輔・久保田拓也)

「<悪の凡庸さ>を問い直す」(田野大輔・久保田拓也 他)

 

「マフィア帝国〜」は以前からキューバの歴史に興味があったので、ダークサイドからのカストロ革命史を知りたくて。ただ、副題の「ランスキー・カストロ・ケネディの時代」というのはやや誇大広告で、ケネディはほんの数ページしか出てこない。ちょっと不満。あと、概ねランスキーの評伝になっていて、カストロは脇役扱い(まぁそういうタイトルなんだから仕方ない)。内容の割に読み進む速度が遅かったのは大部分がマフィアの抗争史だからかなぁ。ツマラナクもないけど、すごく面白かったわけでもない。

 

田野・久保田の著書2篇は、最近アーレントの「イェルサレムのアイヒマン」の内容が誤読されているらしい、と仄聞したので最近の研究はどうなってるんだろう、という感じで(自分としては過去に一度興味を持ってサーベイして手放したネタではあったものの)読んでみた。「イェルサレムの〜」は自分史上最高の読書体験の1つなんだけど、あのメッセージを誤読することがあるんだろうか、という驚きと世の中での昏い不信を持って読んでみたわけ。「検証〜」のほうは、アーレントというよりもナチズムやヒトラーに関する評価・認識が昨今のA倍時代の歴史修正主義の流れでヘンなことになっていることへの反撃の書になっている。きちんと資料にも当たっていて、歴史研究の重みを感じるし、昨今の歴史修正主義ってこんなにトンデモなんだ、ふーん、という感じで呆れるやら驚くやら。「<悪の凡庸さ>〜」のほうも、どうやら「アイヒマンは普通の市民でただの歯車だった」というトンデモな誤読が広がっているらしく、それを正そう!という田野と久保田の情熱を感じる。その点の評価は2点を通じて非常に高い。

 

ただ、「<悪の凡庸さ>〜」で明らかになったのは歴史研究と思想研究の間の深くて暗い溝。自分の立ち位置はハッキリと思想研究のほうなので、「悪の凡庸さという言葉が一般に誤読されるようになってきたので、言葉を変えて(「悪の浅薄さ」とかに)再定義したほうがいい」という歴史研究家の意見には全く1mmも賛同できない。誤読するヤツが馬鹿なのか悪意があるのかなんなのか、なので、それをとにかくモグラ叩きのように1つ1つ叩いていくしかないんじゃないか、と思う。その意味でも、紙上シンポでも百木氏の意見は僕の意見と非常に一致度が高かった。そうなんだよ、あれを誤読するヤツが馬鹿なんだ(念の為書いておくと百木さんは馬鹿だとは言ってませんが)。現代文の試験なら0点だね。