「キオスク」「僕の大統領は黒人だった」 | 楕円球空間

「キオスク」「僕の大統領は黒人だった」

最近読んだ2点。

 

「キオスク」(ローベルト・ゼーターラー)は第二次大戦直前のナチス台頭期のウィーンを舞台に、ジークムント・フロイトの離墺、という歴史的事実に、ザルツカンマーグートから「上京」した少年の成長(またもやBildungs Romanですな)を絡めて、オーストリアが民主制を失った昏い時代を切り取った小説。ゼーターラーの小説が概ねどれも平易な筆致ながら、どこか人生の儚さや寂しさ、一方で無名の人の息吹、といったものをコンパクトに切り取る小説で、これもそういう中に位置づけできる。特に傑作というわけではないが、駄作というわけではない、独特な立ち位置かな。

 

「僕の・・・」(タナハシ・コーツ)はリンカーン以来、合衆国最高の大統領の統治した8年間に著した雑誌記事をまとめたもの。当初、アフリカ系アメリカ人からみたアフリカ系アメリカ人の治世の評価・賛辞、と思って読みだしたら全く違った。極めて綿密な文献調査と統計調査に基づいた、上品な筆致ながら激烈なアメリカ合衆国批判の書。「賠償請求訴訟」が巨大なインパクトを与えたのがよく理解できる。現在の世界に覇を唱えるアメリカ合衆国の繁栄が、以下にアフリカ系アメリカ人を始めとするcoloredを組織的・政治的に迫害し続けたことに起因するのかを、縦横無尽かつ徹底的に明らかにして、絶対にこの問題をなかったことにしない!という極めて強い信念に溢れている。当然あの第45代大統領がその文脈で登場してしまったか、という冷静な分析と強烈な批判も盛り込まれている。静かに始まるが、読後感はすごく重い。皆に薦めるわけじゃないが、アメリカという国、アメリカ史、アメリカ政治に興味がある人は必読。