「犬を愛した男」
レオナルド・パドゥーラ著。
ここ数年で最も読み応えのある本。700ページ近くの大部なのだが、1940年8月20日のトロツキー暗殺の日を結節点にして、暗殺者、トロツキー、そして暗殺者から往時の話を聞き失った作家スピリットに火がつくキューバ人(体制から圧力がかかって、自分らしさを失った人)の3人の物語がジワジワとクロスしていく描写が圧巻である。
3人に共通するのは、皆、体制から何らかの圧力・圧政・迫害をうけていること。暗殺者はゴリゴリのスターリニストか、というと全くそうではなくて(史実もまた)、洗脳され、騙され、最後に捨てられる、という意味ではまごうかたなく虐げられた人。トロツキーは虐げた経験のある虐げられた人、であって、その皮肉な 人生を通して、生きる意味、理想を追求することの意味、アイヒマンにも通暁する平凡な悪の恐ろしさ、などがページが浮かび上がってくる。
読後感は必ずしも万人にいいわけではないが、文学的価値が極めて高い傑作、と高く評価。