「帰郷者」(シュリンク) | 楕円球空間

「帰郷者」(シュリンク)

変わった角度からの評論なので、おかしいかもしれないが、非常に「音楽」を感じる作品だった。「音楽」と言っても旋律ではなく、むしろ楽理(楽典)か。テーマ(旋律)はシュリンクが頻繁に(というかいつも)取り組む、「ドイツとドイツ人の戦争責任」なわけだが、構成が非常に音楽的で、フーガのようでもあり、変奏曲のように反行・逆行などのテクニックを使っているような部分もあり、でバッハのフーガや、ラフマニノフの「パガニーニラプソディー」などを聴いているような感じ。


旋律のほうは法学者らしく、実存主義やら脱構築やらのアプローチによる法と正義に関する解釈が開陳されるのでそこの部分は理解が遅れがち。面白かったが、ところどころにシュリンクの弱さ、というか大きく話を広げておきながら、そういう第X主題の処理が疎かになったりしている部分も散見される(そういう意味ではマーラー的なのかも)。なので文句なしの大傑作、という感じでもないのだが、言葉にはしにくい魅力のある作品をずっとシュリンクは提供しているな、とは思う。ちょっとくすんだトーンというか、フランス映画のような不条理性、というか。あんまりドイツ的ではないかも。もっともドイツ的を極限まで推進した結果の1つがナチだ、ということもありうるので意識的にそれを避けているのかもしれない。次回作はドイツ赤軍をテーマにしているらしいので今から楽しみ。


この後は鷲田清一の「京都の平熱」。これは正直ちょっと・・、という出来。所々に興味深いエピソードが挿入されるのだが、書き下しにも関わらずそういうエピソードの使いまわしが章の間で頻繁に行われているし、いまひとつ素材(執筆する対象、というのか)に品がないのがイヤ。臨床哲学って社会学と何が違うの?という素朴な疑問が・・・。あと、エッセイ風なのにまとまりがなく書き散らした感があるのも欠点。オススメはしない。


今はハンナ・アーレントの遺稿集(責任と判断、だったか)とメジャーリーグの本を平行で読んでいる。