---夜中、同じ部屋で眠れない私、ユカリ、エリは、恋愛話に花が咲いた。

ユカリはやはり、原先輩の話…

エリは彼氏の健吉くん(私と同じクラスで光輝の親友)とのノロケ話…

私はやっぱり光輝の話だけど…自分からベラベラ話すのは恥ずかしいから、聞かれたことをただ話した。


「本っ当うちのクラス(A組)で光輝くん人気あるから、

あや、ボーッとしてたら取られちゃうよ~!」

エリが私に言った。


「大丈夫。簡単に揺らぐくらいの関係じゃないからさ!」


「ならいいけどさ~。だって私、友達に聞かれたんだよー?『光輝くんの彼女ってどういう子?』って。」




「ええー!!!」




「な~んか私としては、なんだか変な気分だよ。

だってさぁ、あやは光輝くんとラブラブだし、私の友達は光輝くんに近づきたくて悩んでるみたいだしさ~……

なんかどっち応援していいやら……」



ここでユカリが口を挟んだ。


「いやいや、普通みえを応援するでしょ!だって彼女だよ?」


「うん、そーしてよ~!!そっち応援されても~……」

私もエリに言った。




私はこのときエリが口にした言葉をさほど気にしなかった。

エリの彼氏と光輝は親友だし、
光輝と私もよく、エリと健吉くんのカップルの話をするくらいだから、
エリは無条件に私たちを応援してくれてるって、
そう思っていた。

---いよいよ合宿が始まった。


宿までの移動はバスで、
席は自由席だった。
私の隣はユカリだった。


「ねぇあや、私合宿中に原先輩に告白しようと思うんだ。だから色々手伝って!」


ユカリは私の耳元でそう言った。


「へぇーそうなんだ!わかった!!応援するよ!

ただ、私原先輩と話したりすると、拓也がすぐ変なニュアンスで光輝に言っちゃうんだもん……」


「それムカつくね!私拓也に話しておくよ!『あやは私の応援をしてくれてるだけで、変なこと彼氏に言わないで』って。」


「ありがとう…(笑)」


「あのさ、でね、原先輩に今日中に『どんな子タイプですか?』って聞いてみてくれない?」


「え、合宿中に告るのに、今更タイプ聞くの?」


「いいじゃん別にー。それによって告白の言葉変えようかなって(笑)」


「そっかそっか。じゃあ聞いておいてあげるよ!」


私も個人的に拓哉には釘を刺した。

「合宿中はユカリと原先輩を上手くいかせるように原先輩に近づくだけだから、

光輝に変な風に言わないでよ。」

って。




---その日の夕食時、
私は原先輩の隣の席を確保し、私の隣にはユカリが座った。


「先輩!先輩少し焼けましたね~。先輩っていったら色白なイメージだったのに~」


「あぁーまぁ……焼けた……ね」


相変わらず先輩は目を特に見てもくれず、
クールな対応だった。

それでも私は先輩に話しかけ続け、
何人兄弟なのか…
いつからテニスを始めたのか…
彼女は今まで何人いたなか…

そこまでは聞き出した。


「ちなみに先輩ってどんな子がタイプなんですか?」

私は思い切った。


「タイプ………うーん…」


「うーん……?」


「えー……」


「えー……?」


「ん……明るい子とか。」


「先輩の口から『明るい子』とか意外ですね!」


「…そうか…なぁー……んー…」



夕食が終わったあと、
私はもう一度ユカリに原先輩と話したことを伝えた。


「『明るい子』って言ってたんだぁ~?意外ー!」


「だよね~!私もそう言っちゃったよ~」


「じゃ、私明日の夜、明るいノリで告ろうかな!!(笑)」


「上手く行くといいね!!」


「ありがと!」


私は、心の底からユカリが上手く行くことを願った。


なんか…
なんか話そうかな…
でも…



…そんなことを思っていたとき、
彼がデンモクをテーブルに置き、


「俺、本気で好きだから…」


そう言って両手で私の顔を持ち、キスをしてきた。


えっ………



なんだか彼が『男子』ではなく、『大人の男性』に思えた。


私は、自分の心臓がかなりバクバクいってるのが聞こえた。



二人っきり。
密室。
私服。
沈黙。
この状況…。


私はこのあと何が起きそうなのか、すぐにわかった。



「こうき……ちょっ……待っ……」


光輝は私をゆっくり寝かせてきた。

付き合って三ヶ月。
今まで私たちに体の関係は無かった。
キスまでだった。




よく女友達に、

「まだやってないの?」

そう言われてたけど、
私はさほど気にしたことは無かった。


ギューって抱きしめられたら、それだけで愛情を感じるし、
どちらかというと一生やりたくない!という気持ちすらあった。


なのに今、
まさにその状況だった。


恋人なら当たり前の出来事…。
でも、私には…



「光輝…ごめん……あの…」


「大丈夫…優しくする……」


光輝には上手く伝わらないようだった。


光輝は好き。大好き。
大好きだよ本当……
愛してる。
愛してるけど…
待って………!!




「光輝……本当ごめん……っ」

私は顔を合わさず光輝に言った。


「あ………ごめん…」

光輝は私の体から離れた。



「本当ごめん…なんかまだ……」


「俺、怖いかな……」


「違うの、本当に……なんていうか…

でも光輝が1番だったらいいなって思ってるんだけど…」


「ねぇ……あや…」


「……ん?」


「あや、好きな人いないよね?」


「え?・・・・光輝だよ?」


「本当?」


「あ……当たり前でしょ…」

私は下を向き、小声で答えてしまった。

それは自信が無い訳ではなく、

『なら、なんで抱かせてくれないんだよー』と思われそうで、
どうしても光輝の顔を見れなかった。


「ならさぁ……原先輩は?」


「は?」


「原先輩とはなんもないの?」


「……は?」


「言わないでおこうかとも思ったけど……

拓也がさ、『最近あやと原先輩が仲良いみたい』っていうからさ…俺気になってて。

しかも、ちょうどそれ聞いたくらいから、

あや部活の話するようになったし…。俺妬いたわ……だからなんか…」


そんなこと私は全く知らなかった。
私は光輝だけを好きだって、

いつでもわかってくれてると思ったのに…。


「原先輩は本っ当私なんとも思ってないから!

拓也がなんて言ったか知らないけど、信じて欲しい。

あと、同じ部活のユカリが原先輩のこと好きだし、

先輩と話せないユカリのために、私スパイしてるだけだから!」


「あ、ユカリちゃん原先輩好きだって言ってたもんね、そっか。

……なんか疑ってごめん。だから俺、正直焦って……」


「そうだったんだ…。合宿中も、メールはするから!」


「うん、わかった。」


「大好きだよ。」

私は光輝を抱きしめた。



今思うと、
光輝はこのハグをどれほど憎かったのかと思う。