二人にとって、このときが初めてのカラオケだった。


「初めどっちが歌う~?ジャンケン、ポン!」


光輝が負けた。


「じゃあ……ゆずにしようっと~♪♪」


「あ、いいねー!」


「『なにもない』にしよ!俺、これからギター始めたんだ!」


「へぇそうなんだ?」


「じゃあ私も入れよ♪」


彼はゆずの『なにもない』を入れ、
私は矢井田瞳を入れた。



「♪なーくしたーものをー探し歩いているー…」





彼は・・・・

かなり上手かった。私は聞き惚れた。

本当に本当に上手く、
甘く優しく、透き通った声だった。


前は弾き語りで路上で歌ってたって言ってたな…




「あや歌える?」

間奏で彼が聞いてきた。


「うん!」


「じゃ歌って!」


後半は私が歌った。


「あや、ギターと合いそう……」

彼がそんなことを言った。


いつかまた彼の弾き語りが聞けたら…


そう思った。




--私も歌い終わり、お互い1時間程度歌った頃…


なんか、

なんともいえない静けさが二人の間にやってきた。


沈黙……。


気まずい訳ではない。
話がない訳でもない。

ひたすら沈黙。


こんな空気の二人は初めてだった。

「タイプって………タイプなんかいないよ。

鈴木先輩は遠い存在だし、中越先輩チャラいし、原先輩は人見知りだし……(笑)」


「じゃあ1番仲良いのは?」


「うーん……………仲良いっていうか、何気1番話す機会が多いのは…原先輩!」


「あの人、女子嫌いなんでしょ?女子とは話さないって噂だけど……」


「あー…だね。原先輩目当てでテニス部に入った子はほとんど辞めたもん。

でも私はさ、逆に先輩のこといじってる(笑)

『先輩またメロンパンですかー!』とか、『先輩走るのおそっ!!』とか…。」


「なんか言い返して来る?」


「『あぁ…』とか『はは…』とか『まぁ…』とか(笑)」


「そうなんだぁ。」


「原先輩はいじるとおもしろいんだよ~。みんなが王子扱いするから話せないんだと思うなぁー…」


「そっか…」


それで三大王子の話は終わった。


「あ、そういえばさぁ、三大王子のついでなんだけど、昨日文化祭実行委員がさぁ、

6つのグループ分けされたんだ!でね、A組の女子が一緒のグループなんだけど、

その子が『うちのクラスで光輝くん人気だよ!でも彼女いるんだよねー』って言われてさ!!

俺もついに王子の仲間入りかと思ったぁ~」


「あ~その話本当らしいね。私もエリ(テニス部でA組)から光輝ファンは多いって聞いたー。

やるじゃん!四大王子じゃん!!」


「まぁ、俺はあやがいれば十分だから、あやだけの王子でいるからー(笑)」


「あははーそうして!」


「あやも合宿で三大王子に浮気するなよー(笑)」


「出来ないし…(笑)」


「信じてるから!」


「大丈夫大丈夫!!」



光輝が王子……?
いや、人気出ないで…


そんなことを思いながら、手を繋ぎ、近くのカラオケに向かった。

夏休みに入った一日目、

「あやー!!明日カラオケ行かない?」

そう光輝に誘われてカラオケに行った。



「カラオケ行く前になんか食わない?」


「うん、そうしよー!」


私たちはミスドに入った。


「あや部活の合宿もう少しだね~楽しみ?」


「うん、楽しみぃ!緊張してきたー!」


「あ、三大王子によろしくね!」


「あははー……うん!」


三大王子とは、
テニス部にいる、学校でも有名な高身長のイケメン三人だった。
ちなみに光輝が私に『三大王子』の単語を出したのは、これが初めてだった。


「あやは三大王子の中で誰がタイプ?鈴木?中越?原?」


彼が聞いてきた。




三人には特徴があった。

鈴木先輩はテニス部のキャプテンで黒髪、短髪。優しく明るく真面目。

成績優秀で生徒会役員でもあるから知名度は1番。


中越先輩も黒髪で、髪がツンツン立ってて、部内に彼女持ち。
とても話が上手く女の子の扱いも手慣れていて、三大王子の中では1番人気。


原先輩は、茶髪で髪が寝癖なのか無造作ヘアーなのかわからないけどいつもクシャクシャ。

三大王子の中で顔は1番かっこいいと言われてるけど、人見知りが激しいため、仲良くなるのは困難。