7月17日の夜遅く、SNSを見てたら、ポルトガル語メディアの、Joao Donatoが亡くなったとのニュースが次々にRTされて…。だって、去年も元気に新アルバムだしてたのに…、急に?!、と驚く気持ちと、88歳という年齢を考えると、いつ何があってもおかしくない年で、ああ、Joao Donatoが亡くなってしまったのか…と衝撃で打ちひしがれました。その前の日には、ジェーン・バーキンが74歳で亡くなったと聞いて、すごく驚いたのに…。悲しいなぁ…。

 

 めちゃくちゃ影響を受けたので、その悲しさと、Joao Donatoの事を書くのは、簡単ではないですが、つらつらと、思いを書き連ねてみます。

 

  ジョアン・ドナートの名前を知ったのは、そういう方も多いと思いますが、JICCからルイ・カストロの「ボサノヴァの歴史」が出版された時、カルトな扱いでドナートの名前が沢山出てきていたので…です。その頃、ジョアン・ジルベルトのボサノヴァにすごくハマってたので。それ以前にも学生時代にジョアンのボサノヴァやサンバなども好んで聴いてたんですが。

 それから彼の曲を探して、一番最初に、彼の編曲や演奏を聞いたのは、オムニバス収録のNana Caymmiの77年作収録の曲。演奏のグルーブと先鋭的な編曲に、ああ、こういう人なんだ!、と思いつつ、手持ちのアルバムやアルバムのクレジットが少なくて、彼の事はよく分からなくて。で、ジャズの専門店に行って、Eumir Deodatoとの共作アルバムを注文して、なるほど…と思ってたところに、小野リサさんと共演アルバムが出たり、リサさんと共にライブツアーを行ったり、ドナートのアルバムが再発されたり…と注目が集まった。しばらくメインストリームでの活動が途絶えていた(他のアーティスト楽曲の編曲や演奏は続けてましたが)、活発にアルバムリリースを始めたのでした。この辺りも当時から聞いてるファンの方はご存じと思います。

 

 ドナートのアルバムや編曲担当アルバムは、どれも素晴らしいけれど、私は、やはりQuem eh Quemが、一番好きで、大変影響を受けました。長年、繰り返し聞いてるアルバムです。あのアシッドで先鋭的ながら、すごくメローで心地よい音が、本当にドナートらしく本当に、素晴らしい。この世の音楽とは思えないほどで。ブラジル音楽のメローな音楽の、理想形のような音楽を、作り続けた音楽家だと思います。しかも、他のボサノヴァなどの音楽家で、引退する音楽家や、音楽活動を続けながらも、あまり音楽性も変わらず、同時代性も薄い音楽を作るベテラン音楽家も多い中、ジョアン・ドナートは、ブラジル音楽の第一線で、シーンの最先端に位置する音楽を、88歳まで作り続けた事が、他のアーティストとは違っていて、本当に驚くべき事だと思う。

 そう、ジョアン・ジルベルトがボサノヴァを生み出しながら、ひたすら彼自身の音楽性を温め、彼自身の音楽を追求したのと少し対称的に(悪い意味ではなく、それがジョアン・ジルベルトだと思うし、ジョアンのそういう所が私は好きです)ジョアン・ドナートは、ティト・プエンテやエディ・パルミエリら、大好きなキューバ音楽系等のラテン音楽界に足を踏み入れ、70年代はメロー&ファンキーなフュージョンの波に乗り、ファンクやソウルの洗礼も受け、77年に金字塔とも言えるQuem eh Quemをリリースし、80年代初頭前後から、しばらく裏方の仕事が増え、自己のアルバム発表が途絶え、少々隠遁しながらも、自分の音楽性を貫き、ブラジル音楽家のクオリティ高い音楽を支え、90年代の復活以降は、最初は、ジャズサンバ的な作品を送り出しながらも、再び、そのメローな音楽性を生かした、2000年代~2020年代の同時代の音楽とシンクロした、恰好良い音楽に挑戦し続け、それを聞いた若者達が、口を揃えて、かっこうええー!と褒めた称え、絶賛され続け、それで今年亡くなった訳です。彼がこの世を去った事は、大変悲しいけれど、ここまで、時代を越えて大活躍する音楽家は、世界的にみてそう多いものではなく、稀な事だと思います…。2016年の『DONATO ELETRICO』からの、あのジャケットだけで名盤だろ!と予感する、2017年の息子Donatinhoとの共演アルバム『Sintetizamor』、これも名盤と話題になった、2021年の同じく異才の音楽家ジャルズ・マカレーとのデュオ作『SINTESE DO LANCE』、そして去年リリースの『SEROTONINA』まで(※すみません、大ファンなのだけど、最近音源購入が減ってて、しかし動画で聞くのは嫌なので、まだこの辺りを殆ど聞いてないのです)快進撃を続けたのは、おそらく息子のDonatinhoなど、回りの支えもあったとは思いますが、90歳近い高齢者とは思えない、何と意欲的な姿勢だろうと感嘆しかないです。だって、ジョアン・ジルベルトより少し年下とは言え、モダンジャズの黎明期、ボサノヴァの黎明期から活動してた人が、若者とコラボして、メローなエレピのファンキーなアルバムとか作ってた訳ですから…。何度も繰り返しますが(爆)。

 ブラジルのサンバのアーティストでは、90歳越えても作品作る人もいますが、なにせ、今の先端を行く音楽を最後まで作ってたので。アメリカなどの大物ジャズ音楽家で、90歳越えてライブやアルバム作った方も確か居ますが、アメリカでも稀だと思ったり…。クイシー・ジョーンズは、モダンジャズの頃から活動してて、ジョアンと同じく、フュージョンやソウル畑でも活躍してますが、現在、90歳だそうでプロデュース仕事や出演等は近年も続いてるそうだけど、2010年以降、リーダーアルバムは出てないみたいだし。ハービー・ハンコックは83歳だそうで、ジョアンより若いし。

 

 ドナートが編曲を担当したアルバムや録音に参加したアルバムで、素晴らしいアルバムは数多くありますが、一番、トータルでの驚きを感じたのが、Orlandivoの77年作でした。こ、この音を作れるなんて…と、コード感や編曲のプログレッシブさ、グルーブの恰好良さに、どういう頭の構造と知性をしてるんだろう?と、いまだに感じます。それほど独特で、でも単に先鋭性、先端性だけでなくて、心地良く美しい音楽で、そこが素晴らしいし、尊敬する。

 他には、上に書いた、Nana CaymmiのアルバムでのJoao Donato編曲は素晴らしいし、それから少し後に聞いた、Gal CostaのCaymmi集の「Canta Caymmmi」では、Joao Donatoが全編で編曲を手掛けていて、去年のGal死去の時にも聞き返して感じたけど、あのアルバムも、大変な大名作です。同じくGal Costaの有名作で名盤の「Cantar」でも、Joao Donatoが何曲か編曲と演奏を担当していて、大変美しい名曲で。

 Gal Costa追悼の時にも書いたけど、DonatoのAte quem sabeでのピアノ一本の演奏とか、同じ奏者と同じ作曲者とは言え、Marisa MonteのAmor I Love youでの、Donatoのピアノ一本の曲や、あのアルバム全体のコンセプトの源流は、このガルの、Cantarだったのかも?、とふと思いました。実際に当たってるかは不明だけど、意外と遠くないのでは?、と感じたり…。

 あと、これもよく思うんだけど、Joao Donatoが演奏や編曲で参加してるアルバムは、傑作アルバムが多いのです。Joao Donatoが参加をOKするレベルの音楽家は、やはり音楽レベルが高い人揃い…という事でしょうか。これも、ブラジル音楽の法則の1つと思ってます。しかし、私が聞いてないJoao Donatoの仕事も沢山あるし、書き漏れた作品も沢山あります。

 

 ドナートのブラジル時代のソウル系仕事では、今、手元に音源無い中で(CD等を別の所に置いてるので)、真っ先に思い出すのは、Emillio Santiagoのアルバム参加とか。Emillioの75年の名作ソウル系アルバムに、Joao Donatoが参加してるんですよね。Emillioの77年作のComigo É Assimにも参加してて、そちらも名作。

 

この1曲目は、自作で彼の編曲と演奏によるBananeiraから始まる。

 

Joao NogueiraのBatendo a Portaの演奏。アレンジは、Dori Caymmi。

 

Donatoらしいプログレッシブで、メローな編曲とエレピが恰好いい、グルービーな曲。

Nega Dina Emillio Santiago

 

このアルバムのDonato参加曲では、この曲が1番好き。キューバというか、ラテンジャズ風のドナートの編曲とピアノ演奏が、彼らしい。

La Mulata Emillio Santiago

 

 あと、Marku Ribasとか。 Luiz Melodiaのアルバムにも参加してた記憶がある。ここ20年位の、新世代MPBのアーティストや、マルセロD2などの、Hip Hop系等の今のアーティストとも沢山コラボしてる。 88歳で、すごく若い世代の音楽家からも、すごく尊敬されてて、日本の若い人にも好まれるって、本当に稀有な音楽家。

 

 

 2000年にリリースされた、クラブジャズ的な音楽性の延長線上で、ブラジル音楽とエレクトリックなアレンジを上手く融合させた、先駆的な傑作として当時非常に話題になった、Bebel GilbertoのTanto TempoにもJoao Donatoはアレンジと演奏で参加しています。

 

Bebel Gilberto - Bananeira

 

 

 上記で書いたけど、ドナート死去後に、某ブラジル音楽本を読み返して、Orlandivoの77年作がDonatoの編曲&エレピ参加の傑作なのを、思い出しました。(最近、あまりブラジル音楽を聞き返してなくて)

 ドナートが編曲担当したアルバムの中でも、飛びぬけてフェイバリットなアルバムです。Quem eh Quemと並ぶ傑作と感じたり。これを聞いたのは、小野リサさんとの共演後の時期かな?。その頃聞いて、すごくハマった。ノルデスチのルーツ音楽をベースにしつつ、大変グルービーでアシッドな音世界。Orlandivoのリーダー作で彼の曲や歌、演奏の才能が生きた内容ですが、アレンジや音の質など、Joao Donatoらしい個性が濃いアルバムだと思います。

 

Orlandivo - Orlandivo 1977 (Full Album)

 

 

 さて、私は、彼の作品へあれこれ軽々しくコメントしてるけど、ドナートは天才型の、ぶっ飛んだ、破天荒な人間とよく言われますが、何かの記事で彼が、父は空軍パイロットで、自分もパイロットになりたかったけど、目が悪くて夢を諦めて、それで音楽を真摯に続けてるんだという風に言ってて(もっと良い言葉でした)これが頭にずっと残ってます。破天荒な面もあるとは言え、これだけの人達に認められ、これだけ人々に愛される音楽を次々に生み出し続けたのは、並大抵の努力ではないですよね。 天才型の芸術家で夭折する人もいるけど、ドナートの場合、88歳!まで第一線で素晴らしい作品を作り続けた事に、尊敬します。

 そこが、ブラジルの芸術家っぽいなぁ、と感じます。なかなかそういう生き方はできないですよね。努力家で、お茶目な人だったんだろうなぁ…。かなり個性派な人間と聞きますが。
 あのグルーブの素晴さに加えて、彼の最大の特徴と言える、非常にプログレッシブで、アシッドな音構造が素晴らしくて、それが、曲、編曲の美しさ&心地良さと両立するのが素晴らしすぎます。 プログレッシブ性のみなら、他国でも多いけど、心地良さと自然さと同時に成り立ってる所が、ブラジルの天才音楽家らしい。
 天才型の音楽家でも、独りよがりな、聞き手の事をあまり気にしないタイプもいますが、ジョアン・ドナートの場合(ジョアン・ジルベルトもそうだけど)天才型の音楽家だけど、聞き手が心地よいと思う音楽を、真摯に追い求めた事が素晴らしいと、よく思います。天才型とは言っても、独りよがりな作品を追い求めない所が、彼らの音楽が好きなゆえんです。だから、自然物のように、とてもナチュラルで、心地よい作品になるのだと。
 Agradeco a sua obra,esforco,trabalho,intuicao,Mestre Joao Donato!!
 

 

 ツイッターでブラジルの有名人やメディアが彼の死去をツイートしたので、かなり長いけど、貼りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓私も同じです。

 

 

 

 

HPでのジョアン・ドナート追悼記事です。

 

 

共同通信から死去のニュースが配信されたみたいで、産経でネット記事が。

 

 死去前のコラムですが、板尾さんのコラムが。アストラッド追悼記事で、ちらっとドナートの名前が出てきます。「ボサノーヴァを世界中に広めた功績者の訃報がブラジルであまりにも小さいのは何故か、についての論評」から、話が広がる、いつもの板尾さん流の文章です。

 

元記事は、こちら。

 

 

 Joao Donatoのwiki、情報量が昔よりも充実しましたね。正確さは不明ですが…。私も、彼のDiscografiを作ろうとしたけど(自分のアルバムは作るのは容易ですが、参加アルバムの方)、多分、誰かマニアが作ってるのだと思うけど、もしあれば助かるとも思うけど、リストがあって、それで超楽して聞けると、彼の録音を探し当てた時の、喜びが軽くなる気がします。そういうのはネットの功罪だな…。

 ドナートのファンにとって、彼の録音参加作を聞くのも、大きな喜びで。

 

 

 

 最後に、ツイッターの追悼ツイートで見つけた動画を貼っておきます。お気に入りにブックマークしておくだけだと、忘れがちなのでブログに。動画を紹介頂いたい方々、大変ありがとうございました。

 

大ファンのZecaとの共演で嬉しい。

João Donato & Zeca Pagodinho - Sambou Sambou (SAMBOLERO)

 

Um Café Lá em Casa com João Donato e Nelson Faria

 

小野リサとのデュオライブの映像。これ元は何なんでしたっけ…?来日時でしょうか?。初めて見たかも。