退院してからもう3カ月半。だいぶ記憶が薄れたけれど絶対に忘れないエピソードがある。「顎が外れた」。

手術は午後から。夜中に目覚めたけれど麻薬系の痛みどめの点滴をしていたので、痛みはないが吐き気や具合に悪さで用意していた水も栄養補給のためのゼリーもほとんど口にできなかった。入院前、全身麻酔で目覚めた後に溺れるような苦しさを体験した話を聞いていたので少しビビっていたけれど、嬉しいことにそれはなかった(麻酔の種類が違ったらしい)。ただ足につけた弾性ストッキングの圧迫感と尿道カテーテルの違和感は絶大。絶対明日にはトイレまで歩いてやる!(自力でトイレまでいければその2つは取れるらしい)と思った。

もちろん頑張って翌日の午後には取れた。でも本当に頑張ったから取れたというのが正直な状態で、翌日の朝食はふた口ぐらいでギブアップ。その後もひとくち食べては横になって休憩という状態がしばらく続いた。徐々にひとくちがふたくちになり、ふたくちがみくちになりと退院前にはなんとか休憩なしで食事を終えられるようになった。

食事が美味しい病院だったから気持ち的には食べたいのだけれど、身体がついていかない感じ。食器を持つのも、起き上がっている姿勢をキープすることも出来なくて、一週間くらいはリハビリとトイレと食事以外はほぼ寝たきり。で、左の耳たぶと左手の肘の下が赤くなった。耳は「褥瘡」いわゆる床ずれ。肘の下の赤みはただの擦れだけれど、ベッドから起き上がる時にベッドの柵を掴んで起き上がっていたいた時に出来たらしい。自分では見えない場所なのでどちらも看護師さんに発見された。どちらも軽症だけど、こんなに簡単に床ずれができるのは驚きというより衝撃だった。寝たきりのひとの体位交換の重要性が現実的にわかった。

さて長い前置きだったけれど、本題の「顎が外れた話」。最初に書いた全身麻酔、これがことの発端。私は歯科医の先生によると片方の顎の靭帯がゆるい?らしく以前から顎が外れやすかった。就寝の前後や起き抜けにあくびをした時が一番危ない。でも慣れっこだったのでいままでは自分で直せていた。飛び出た顎の骨を押すと大体は元に戻るのだ。

今回の事件はそのあくびで起こった…。。手術前の麻酔科の先生の問診の際、「口を大きく開けてください」と言われたにだが、この時すでに嫌〜な予感があった。術後2日目だったと思う、カテーテルが取れて少し楽になった頃にそれは起こった。ふとあくびをしたら顎が外れた。前述のように慣れているから、飛び出ている骨を押し顎をはめようとしたがはまらない。5分くらい、いやもっとかもしれない、自力で格闘したが無理。ナースコールを押した。駆けつけた看護師さんに口が半開きの状態で「あごがはずれてもどらない!」と必死に訴えた。状況は理解したようだが、どうしていいかわからない看護師さんは他のナースに助けを依頼。3人くらい駆けつけたがだれも何も出来ない!結局院長先生を呼ぶことになった。

5分くらいで院長先生が駆けつけてくれたのだが、その直前にどういったわけか顎がはまった。つまり先生が来た時には普通に戻っていたわけだ。めでたし!めでたし!となりそうな話だけど実はその後が大変。顎は一度外れると、しばらく外れやすい。癖がつくのだ。その時はまだ全身麻酔と痛み止めの麻薬(手術中と翌日点滴をしていた)の影響が残っていたので、麻酔科の先生が薬を排出する漢方薬を処方してくれた。さらに院長先生の発案で眠っている間に顎が外れないように、昔よく見かけた頚椎カラーをつけることになった。でも頚椎カラーは地味にしんどい。ゆるくはめて顎を埋めるように使ったが、半日で外した。その代わりあくびが出そうになると両手で顎を包むようにした。大きく口が開かないために。でもこれをあくびが出そうになるたびにやるのはまあまあ大変。もしかして退院後もやるのかと思うと痛みや身体的な不自由さより正直憂鬱だった。あくびは漢方薬のおかげか徐々に減ったが、顎を包む動作と外れる不安は退院後もしばらく残った。

以前ブログに書いたが、コロナ渦の前、半年ほどかけて虫歯の治療と合わせ銀歯をセラミックとCAD/CAM冠に変えた。その際、噛み合わせが変わって顎の位置が良くなったと書いたが、実はそのとき以来、顎が外れることはほぼなくなっていた。靭帯はゆるいままだが顎に関節がきちんとした位置にはまったからなのか、とにかく外れなくなっていた。ではなぜ今回顎が外れたのか?その答えは手術の際に挿管した際に「筋弛緩剤」を使って顎を外していたから。。

全身麻酔をかけると呼吸が弱くなるから挿管が必要になる。普通は首を反らせて気道を確保するが、頚椎ヘルニアの患者は首を反らせることが出来ないので先ほど書いたように筋弛緩剤を使って、故意に顎を外す必要があるわけだ。だから先生は手術前の問診でどれくらい口が開くか見たかった、というわけ。

いまも顎が外れそうになる時はあるが、大事に至ったことはない。ありがたい。ただこの入院中の出来事を人に話すたびに落ち込む。顎が外れたことが恥ずかしいわけではない、逆に笑い話として人に話している。ただこの3カ月半、顎が外れたことのある人に会ったことがないのだ!え?わたしだけ?自分は外れやすかったから当たり前だったけれど、世の中的には全然当たり前ではなく、むしろほぼ経験者がいないらしい。その事実は驚きというか、なんというか…。。

入院中の出来事で書きたい話はまだまだあるけれど、やっぱり笑えるのはこの話。でも私以外に誰か顎が外れやすい、外れたことがある人いませんか?  2023/04/13


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