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ウーゴズ・ブログ|kumaのブログ(アート編)

美術館向けの展覧会企画に携わってきたKuma氏が語るアートのつれづれ。

伊藤清子個展『AQUATIC』、いよいよ今日(7月19日)が最終日となりました。本日は5時終了となります。

ここ数日間一緒に過ごしてきた伊藤さんの作品の中の、アカクラゲ、タコクラゲ、ハナガサクラゲ、パシフィックシーネットル、ブルージェリーフィッシュなどの海月たち、マンボウ、キイロハギ、ハシナガチョウチョウウオ、ブルーフェイスキンチャクダイなどの魚たちともお別れしなければなりません。

展覧会中はわたつみのいろこの宮で3年を過ごした山幸彦のように、なんの違和感もなく海月や魚たちと同じ海の水を共有して、外の熱さを忘れ、涼しく過ごしていました。

あと半日となりましたが、できるだけ多くのみな様にこの不思議な気分を味わっていただければと思います。

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東京・南青山のウーゴズ・ワークショップ&アルケミーで19日(木)まで開催中の伊藤清子個展『AQUATIC』から作品をご紹介します。(その2)

会場のドアをあけるとまず目に飛び込んでくるのが、今回の展覧会で一番の大作F100号の『Linkage, 2012 (結合、連鎖、連動)』です。全体に赤っぽい絵です。赤と言ってももちろん淡いピンク系の赤です。モチーフとなったアカクラゲの頭部は画面上方にあり、そこから画面いっぱいにアカクラゲの無数の細長い触手が浮遊しながら垂れ下がっているっといった構図です。


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              Linkage, 2012 (結合、連鎖、連動) F100号


この絵を見ていると非常に心が落ち着いて穏やかな気分になります。そして、なんとも言えない不思議な感覚が持続します。「不思議」な感覚、なぜならこの絵には多くの秘密が隠されているからです。たとえば、この絵が寝室にあってベッドに寝そべりながらそれを眺めている自分を想像すると、得もいわれない至高の気分を味わうことができます。もしかして涅槃とはこのような気分をいうのだろうか・・・とさえ思えてきます。

ここに掲げた写真のイメージからそのような感覚を連想していただくのは無理な注文だと思います。できればぜひ実際の作品を見ていただきたいのですが、ここではとにかくこの絵の秘密を私なりに解き明かしてみましょう。

まず第一に、この絵が大きいということ、そして色調がやわらかな赤、すなわち暖色に統一されていることが大事です。100号という大きさで色調がひとつだからこそ、見る者は眼だけではなく体全体でこの絵の世界にはいりこむことができるのです。文字通り体感できるのです。そのことにより、水中めがねをかけ、息を止めて海の中を遊泳するのではなく、裸眼で息も止めずに海の中にいることができるのです。わたつみのいろこの宮に紛れこんで、そこに住みついた山幸彦の感覚でしょうか。海の中であって海の中ではない、海の中にいて何の違和感もなく空気を吸っている感覚です。でも、海水の比重は感じるので心地の良い浮遊感はある。それがこの絵が与える第一印象です。

もし、クラゲだけが赤で水の色はたとえば青系の寒色で描かれていたらどうでしょう。クラゲはちゃんとアカクラゲに見え、水は海水に見えてしまい、とてもそのような不思議な癒しの感覚は味わえません。

次に、このクラゲの重力を感じさせないなんともいえない浮遊感の表現がポイントです。頭部にも、無数にある触手にも、まったく力がはいっていない。そして浮き上がるでもなく下降するでもない、
なんとも力の抜けたその状態が癒しのオーラを発しています。

実は、作者の伊藤さん自身がその秘密を語ってくれました。彼女がやっているモダンダンスの中で、4拍子で息を吐き、4拍子で息を吸う、そのプラクティスの一瞬に横隔膜が開き体の重力をまったく感じなくなる時があるのだそうです。彼女はアカクラゲの動作にそれと同じ瞬間があることを観察して、それを表現しようと試みたのがこの絵だということでした。重力から解放されること、それは究極の癒しでしょう。

そして、この絵は一見赤っぽいひとつの色調で描かれているにもかかわらず、いくら見続けても見飽きることがありません。それは、非常にゆったりとした気分でこの絵を眺めていると、次々に新たな発見があるからです。たとえば、良く見ると無数にあるクラゲの触手の一本一本の表現にも微妙な違いがあります。その方向性、長さ、太さ、色の濃淡などの違いはもとより、引かれた絵の具の線の上に半透明の和紙が被さって色を抑えている部分があるかと思えば、絵の具が鮮やかな緋色を発色している部分もあり、その都度マチエールも変わってくる。その表現の多様性を確認していく作業はなんとも楽しいものです。

また、この一見赤っぽい画面がなぜ海水を感じさせるのかという疑問もあります。この疑問はゆったりとした気分でこの絵を眺めていると解決します。よーく見ると、全体として赤にみえる画面のところどころに青っぽい寒色系の色が透けて見えるのです。伊藤さんはパネルに和紙を張り、絵の具で描いた上にまた和紙を貼り、またその上に絵の具をおいていくという描法をとっています。したがって、最初の和紙の上に意図的に塗られた寒色系の色のパートがところどころ透けて見えているのです。それもそれらの寒色系の色が下から直接のぞいてくるのではなく、2度張りされた和紙を通して透けてみえるので、非常に微妙なニュアンスを醸し出しています。

伊藤さんの絵にはまだまだいろいろな秘密が隠されています。ぜひ、実際の作品をご覧になってそれらの秘密をさぐる癒しの旅にでてみてください。

19日(木)まで、ギャラリーにてお待ちしております。