会場にはいるとさまざまなクラゲや魚たち、タツノオトシゴなどを描いた絵が迎えてくれます。そして、これらの絵と対面していると自然と自分が画面の中にはいりこみ、あたかも海の中で彼らを見ているような不思議な感覚にとらわれます。
伊藤さんはクラゲなどの水性動物を描きながら、自分が彼らになって運動しているような疑似体験をするそうですが、彼女の絵をみる私たちは、水中メガネをつけて海中を遊泳している感じがしてきます。

たとえば、この作品、タイトルは「EMERGENCE」(出現)。
海の中を浮遊するクラゲが実に繊細なタッチと色のトーンで描かれています。クラゲの動きというのは時に海の流れに身を任せて流されているだけのようでもあり、また時には自律的に方向を変えているようでもあり、非常に微妙です。
この微妙な生き物が、水中を遊泳する私たちの眼前に急に現れた、その瞬間に放つ不思議な存在感を表したのがこの絵だという気がします。クラゲはゆったりとした動きしかしないので、本来「急に」現れることはありませんから、私たちの視界にはいっていなかっただけで、その辺りにはいたのでしょう。この不思議な生き物が視界に入って来た、その瞬間が私たちにとっては彼が「出現」したという感覚になります。その「出現」したことにより、彼の存在感が私たちの中で増大し続けるのです。不思議な魅力に溢れた独特な世界観の絵です。





