
アメリカンアロエ
最初この絵を見たとき、アメリカンアロエとは何かという正確なイメージがなく、しばらくこの絵の構図を完全に誤解していた。当初の私の理解は、左端の鉄柱からせり出した鉄製の湾曲したアームに支えられたバスケットあるいは鉢があり、そこからズッキーニの実のようなアロエの茎がたくさん出て、その頭部に黄色い花が咲いているというものだった。要するに、ハンギングバスケットに栽培されたアロエの図というイメージである。
しかし、こう理解したものの、どうもしっくりこない。そこで、もう一度じっくり見てみた・・・遠景の丘がかなり低く感じられる。ということは、このアロエは高台にある邸宅のテラスで人工的に栽培されているのかも知れない。そのあたりでイメージは停止していた。
ところが、ふと、アメリカンアロエってなんだろう?と思い立って調べてみて驚いた。
まず、アメリカンアロエとはアガベのことらしい。アガベと言えばアガベシロップ。最近、健康甘味料として注目度が上がっている。そう言えば、バレンタイン・デーの前に参加した松田すみれさんのロー・チョコを作るワークショップでも、アガベシロップを使っていた。要は竜舌蘭だ。竜の舌を思わせる(?)トゲのついたギザギザの多肉質の葉を持つ大きなアロエのような外観で、九州など南国に行けば割と普通に公園や庭に植わっている。樹液はテキーラの原料にもなるらしい。でも、あの剣のような葉(?)と「フローラの神殿」のアメリカンアロエとでは似ても似つかないではないか・・・どうなってるんだろう???

よく見かける《竜舌蘭》
そして、もう少し調べてみて納得がいった!

(竜舌蘭の花、遠景)
な、なんと。あのぎざぎざの葉っぱの真ん中に高さ何メートルもある茎がでて、その先に遠目にはバナナの実を上向きにしたような花が・・・

(竜舌蘭の花、近景)
このまるで高木のような茎、7~8メートルはあるらしい。こんなに大きくなるのにどれぐらいの年月がかかるのか・・・想像もつかない。案の定、欧米では100年に一度開花するという意味で「センチュリー・プラント(百年植物)」と呼ばれていたとのこと。えっ、と言うことは最低でも寿命100年???・・・さすがにこれは誤解で実際には数十年といったところらしい。それでもずいぶんと長寿な植物だ。
これでようやく、しっくりこなかったこの絵の構図に対する疑問が氷解した。
それにしても、なんでソーントンはもっとわかりやすくあの竜の舌のように先がとがって縁がトゲトゲになった多肉質の葉の方を描く構図にしなかったのか・・・と少々不満に思いながら、ある当たり前の事実にはたと気づいた。そりゃあそうだよ。だって、これは「フローラの神殿」。花を描くのが使命じゃないか。
なるほど、そうだった。
この絵、いろんなことを学ばせてくれる。さすが、神殿の住人に選ばれただけのことはある。
と感心しきり。
ちなみに、「アロエ」はアフリカの原産でアメリカ大陸には自生しない。それでアガベはあえてアメリカン・アロエと言われる。そう言えば、この絵にはもうひとつちょっと不思議なことがある。それは、花の下方に描かれたいく粒かの露だ。荒俣宏によれば、「植物画に露を描き添える習慣は、16-7世紀のオランダ生物画から定着した」ということで、露は花が象徴する生のはかなさを強調するシンボルとのことだ。
ただ、私はついついアガベシロップを連想してしまうのだが・・・