[き] ピタゴラス
幾何学(きかがく)の ピタゴラス美(び)へ 迫(せま)りたり
籬(ませ)蛇(へび)すら期(ご) 旅(たび)の苦(く)か餓鬼(がき)
———三平方の定理は縞蛇のように美しい。しかし子どもらにとっては、またとないこの交尾期にお使いにゆくようにつらい勉強だ。これをしも、母(はは)の愛だ。
直角三角形の辺の上に立つ正方形はアガムメノンの神殿のように端正で美しい。
しかも直角を挟む辺の上に立つ二つの正方形の面積の和が斜辺の上に立つ正方形の大きさと同じだというのだからピタゴラスでなくても驚愕する。
ひとしなみ数学が好きになる瞬間だが、この学問の名が幾何学だと知った途端、例外なく数学が好きになれなくなる。
祖先がヨミ・カキ・ソロバンのうち、ソロバンの角でひっぱたかれたトラウマが遺伝子の染色体に明確にプリントされたとしか思えない。待てよ。和算の先達関孝和は円周率の計算をしていたそうだから、三平方の定理を知っていたかもしれない。
いまのこどもには国の指導要綱で、円周率を3と教えるそうだから呆れる。そこまで数学を毛嫌い(コケに)することはない。
「蛇」は愛すべし。
大蛇(おろち)の古語を「羽羽(はは)」という。(『古語拾遺』)蛇は無償の愛でキミをきつく抱きしめる。
籬(ませ):籬(まがき)。庭の植え込みの周囲に設ける低い垣根。
「あさきゆめみし」の「き」まで来ました。もう少しでお別れです。
きょねんの暮、「天狗堂」に変わりイロハかるたにどうですか、とメールしたら断られました。
いま振り返ってみると、作品としていいものは一つもありませんね。大いに反省。初めてのお使い失敗の巻、でした。採り上げたヒトはみんな好きなひとなのに……