第213回俳句ポスト兼題「ていれぎ」出句自解 | ouroboros-34のブログ

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こころに映りゆく由無しごとを其処は可となく書き付けて
ごうなっだのでありますぐるらめ。

今回の兼題は「ていれぎ」でした。
「ていれぎ」を知るひとは100人中0.2人でしょう。いや、だれも知らないと言いたいぐらいの知名度です。

松山市指定天然記念物になっている植物「テイレギ」。松山市民でさえ「知らなかった」「見たことがない」「食べたこともない」という「テイレギ」。投稿者のコメントでももちろん、エライ騒ぎになりました。「ウチのまえの溝に生えている草かしら」「きれいな水のところに生えるらしいぜ」「ぴりっと辛いそうだ」「空想で作るしかない!」
ほとんど、手探りで作った句ばかりでした。したがって、「季語がウゴク」句が非常に目立って多かったと思います。
そこで、夏井先生の解題をみてみましょう。
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ていれぎ(春の季語)

アブラナ科の多年草。「ていれぎ」は愛媛県松山地方での呼び名で、正式名称は「大葉種漬花(オオバタネツケバナ)」。清流のほとりなどに生え、辛みのある若芽は刺身のつまなどにされる。3~5月頃、茎の頂に白い十字状の花が咲く。頂小葉が側小葉よりかなり大きい。
なまえの由来:稲の種漬けをするころに咲く花から。
 
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つまり、「ていれぎ」というのは松山地方の方言なのです。
次に掲げるのが今回の出句6句です。

●ていれぎや今朝はほぐれててんでんに

●ていれぎや風も清げに杖の淵

●伊予のひとのていれぎを説く声やさし

●きみはまだていれぎ辺り花いくつ        「並」位選
 ゆきたまさんの追悼句として。
雪玉さんが日記更新をしなくなってから暫く経ちますが、病気が悪くなったのでしょうか。とても律儀な方でしたから亡くなった懸念が濃厚だと、一方では危ぶみながらの追悼句でした。苦しかったでしょう。楽になってください。
雪玉さんは松山のひとです。ウロは、この日を「ていれぎ忌」と命名し、心の中に供養塔を建てました。
こころからご冥福をお祈り申し上げます。

●ていれぎの細き十字架細き影

●ていれぎの小さき十字花稚子霊(みづこだま)  「人」位選
稚子:水子・若子。生まれてくるはずだった胎児(の供養)。

「ていれぎ」は、中国では、「葶藶」というポピュラーな植物です。小型辞書にももちろん記載されていて犬ナズナ(狗薺)のこととあります。

それは兎も角、松山の人、子規に「ていれぎ」を題材にしたものが2句あります。
 a ていれぎの下葉淺黄に秋の風    
 b 秋風や高井のていれぎ三津の鯛

気付いたことが二つあります。
ひとつは、a、bともに「季重なり」ということ。
ふたつめに、bは俳句で一番嫌われる「三段切れ」ということ。

一つ目の「季重なり」は、そもそも、「ていれぎ」が季語ではないということ、でしょう。一地方の方言が全国の共通理解を得、更に詩的共振を腹蔵する「季語」となるには時間がかかるのです。題材によっては永久にそのような時は来ないでしょう。「気候」や「櫻」などは共通理解が得やすい材料です。反して「ていれぎ」は、共通体験が将来に向けてまず無いと見ていい。
「ていれぎ」の季語化は、地元愛のつよい夏井先生の勇み足だったと思います。

二つ目の「三段切れ」は、句の流れが阻害されるから、というのが「嫌い」の理由です。句例はたくさんあります。宗匠がつくったのはいいが、初心者が作ったのはダメということのようです。

有名な「三段切れ」は、
   目には青葉山時鳥はつ鰹  素堂
です。
   蝶来何色と問ふ黄と答ふ  虚子
素堂の句は「名詞切れ」と言い、最もタブーとされているものです。
ウロは、「三段切れ」が、なにも臆することはない立派な手法のひとつであり、醸し出す独特なシンコペーションを無視するほうがおかしいと考えています
「三段切れ」がタブーなのは、名詞で三つにきれるもの(素堂の句のような)で、名詞切れでなければよろしいと変わってきていますが、「切れ嫌い」のもともとの理由「プツプツときれるのは流れが悪い」という理由が抜け落ちた、身勝手な変更です。虚子の句も子規の「ていれぎ」の句bも三段切れです。三段切れの句は無数にあります。いずれも流れの停滞はありません。三段切れが悪いというのは誤った神話であるとウロはおもいます。

〈古池や蛙飛び込む水の音〉は俳句の原点中の原点ですが、定説に反して、ウロは、この句も三段切れと考えています。この主張の説明は次回に譲りましょう。

ながばなしになりました。囲炉裏の火も乏しうなりました。ではおやすみなさい。